第一章第四話ー2

 部活が終わり下校時間。

 いつもなら諒と共に帰宅しているところだが、メールで先に帰ると残し友人は姿を消した。

 一人で下校というのも悪くないかもしれない。

 諒がインフルとかの場合を除いたら、実に四年ぶりくらいじゃないだろうか。


 下駄箱をあとにし、駐輪場。

 ちょうどどの部活もまだ後片付けなどで下校時間になっていないのか実質情報化学部だけが下校のようだ。

 人がまばら。貸しきりみたいな感覚を覚える。

 自転車の鍵を解錠し、スタンドをあげる。

 さて、帰ろう。


「ちょっと待って」


 円芭の声。何か用でもあるのだろうか。

 後方にいる円芭へ振り向くと、自転車に跨がっていた。

 パンツが見えそうで見えないこの残念なポジション。


「どうした?」

「一緒に帰って」


 まさかの!? 

 昨日の今日でもう疑似恋人としてスタートするんだ。


「いいぞ」

「じゃあ、先走って」


 まぁ、断る理由はないけどね。

 円芭の言った通りに先頭を走る。


「……」

「……」


 学校出て数分。何も会話無し。

 つか、どんな話を持ち出したらいいのか分からない。

 家が学校から近いからあまりモタモタもしてられないが、話題が浮かばないんですけどっ。


「……」

「……」


 迷ってる間にももう帰宅路の中間に差し掛かってしまった。

 この流れはお天気ネタから入れという神様からのお告げか?

 初歩的な会話の入り方であるが、意外とこれも奥が深い。


 見れば分かるし、微妙な天気の場合は表現しにくい。

 人それぞれ晴れの認識は違う。

 っと、そんなことを言ってる場合じゃなかった。


「明日はどうするんだ?」


 結局天気ネタは言わないというね。


「気分による」

「そっか」


 一番困るな~。

 スマホは逐一ちくいち確認しておこう。



 ☆ ☆ ☆



 今日からゴールデンウィーク。

 家でくつろいでいたら、スマホがメールを受信したようで震えていた。

 机の上に置いていたスマホを取り、送信者を確認する。


『早速送りました……』


 高田先輩だった。

 実は、花見の時にメアドと携番を交換した。

どうしよう。

 できれば既読をつけたくない。


 内容を確認してみないと重要な用件だった時大変だしな。

 しょうがない見るか。


『これから買い物に付き合ってほしいな~』


 どうでも良いことだった。

 ホントにどうでも良い。

 見なければ良かった。

 既読をつけてしまった以上答えないとまずいよな。


『良いですよ』


 断る理由が思い浮かばなかった。

 つか、断っても了承するまで食い下がってくると思ったからわざと断らなかったのである。


『ありがとうっ。じゃあ、学校の門のところで待ち合わせね!』

『分かりました』


 可愛らしい顔文字と共にウキウキ感の伝わる文面を見たら、脳裏に高田先輩の笑顔が思い浮かぶな。

 さて、待たせるのも悪いし着替えて行くか。着替えを済まし、リビング。


「あれ、祐君出かけるの?」

「おう。高田先輩とちょっとな」

「え、デートっ」

「違います!」

「ふ~ん。まぁ、いってらっしゃい」

「お、おう。いってきます」


 さすが脱俺を宣言しただけあって、あまりいじってこなかった。

 まぁ、これが普通だよね。

 家を出て、待ち合わせ場所に到着した。

 まだ高田先輩の姿はない。

 早く来すぎたかな。


「あ、祐君ー!」

「こ、こえが大きいですっ」


 この人は飼い主を見つけた犬かよ!

 つか、学校の近くにクラスメイトの家があるからあまり名前を言わないでほしい。

 ありもしない噂が広がってしまう!


「まぁまぁ、気にしない気にしない」

「気にしちゃうから言ってるんですけどっ」

「そう言ってる自分の方が声でかいよ?」「……」


 口元を押さえる。

 いや、まぁ遅いんだけど。

 指摘されたからとっさに押さえてしまった。


「行こう、祐君」

「そ、そうですね」


 俺が言いたかったことがひとつも伝わっていないが、ここまで来ればもうどうでも良い。先を行く高田先輩の背中を追う。

 にしても、一体何を買いに行くのだろうか?


 そんな疑問を抱きながら先輩についていくこと数十分。

 某有名デパートに到着した。


「着きましたね」

「うん!」

「それで、何を買うんですか?」

「ヘアピンとふくとあと色々」

「自転車のカゴに入る量にしてくださいね?」

「わ、分かってるよ」


 考えてなかったな!

 目をそらす高田先輩。

 この人何かまずいことが起こると目をそらすクセがあるみたいだ。

 円芭に追求された時もクセが出ていた。


「とにかく入ろっ」

「そうですね」


 これ以上指摘されたくないのか高田先輩が俺の服を引っ張りデパートに入っていく。

 やっと入れる。


「やっぱり今日は空いてるね」

「ガラガラですね」


 正直平日の十五時過ぎにはもうお客さんがいっぱいいると思っていた。

 これは知り合いに今日の買い物がバレる可能性低いかもしれない。


「十七時過ぎたらヤバイから」

「そ、そうなんですか?」

「うん。だから、今のうちに買い物済ませちゃお」


 言い終わるや否や動き始める高田先輩。

 こう言うときは普通の高3女子っぽい動きするのか、この人も。


「いらっしゃいませ~!」


 エスカレーターで二階に上がり、洋服・雑貨を取り扱ってるお店に赴いた。

 少し女性よりの衣服を扱ってる感じがする。

 右を見ても左を見ても入り口付近は女性よりの服ばかり。

 凄くこれ以上先に進みたくない。

 奥は余計女性感が強まっていそうで……。

 どうにかして高田先輩を奥まで行かないよう誘導しよう。


「まずヘアピンからですよね?」

「まぁ、どれからでもいいよ」

「じゃあ、ヘアピンから見ていきましょう」

「うん!」


 入り口の近くに売り場を展開させていたヘアピンを最初に選ばせたのは間違えたのかもしれない。

 ヘアピンを最後に持ってくれば店奥に……。

 あ、どっちにしても高田先輩の目に入るのか。


 高田先輩だからついでにって言って見て回りそうである。

 はぁ……。どうしたものだろう。

 高田先輩にバレぬよう肩でため息をついた。


「これ可愛くない?」

「そうですね」

「あ、こっちも可愛いっ」


 目移りをし始める高田先輩。

 この流れは、ちまたで噂の


『これとこれどっちがいい?』

『右』

『そっか。じゃあ、左にしよ』


 というパターンではないだろうか。

 どういうわけか『これとこれ』という言葉には仕組みがあって、最初にかざした方が選んで欲しいものらしい。


「どっちがいいと思う?」


 あ、あれ? 『これとこれ』がない!?

 クソッ、直感でいくぞ。


「右ですかね」

「じゃあ、これにしよっ」

「……っ……」


 笑顔でショッピングカゴに入れてる高田先輩。

 ちょっと可愛かった。

 この人普通にしてれば可愛いんだけどな。


「次は服。祐君この中で自分が女の子だったら着るってやつある?」

「えっ」


 そんなの考えたこともなかった。

 ん~……。あ、そうだ。


「これですかね?」

「じゃあ、これにする」


 選んだのは円芭が結構着ているようなキュロットと上の服がセットになったやつ。

 理由を聞かれたら別案を言おう。

 折角スムーズに進んでいるのに却下されるのはめんどくさい。

 ていうか、この先下着売り場なんですけど!


「帰る」

「え、もうですか?」

「うん、いいの。もう充分は達成できたし」


 何か若干気になるフレーズが聞こえた気がしたが、この際どうでもいい。

 どうしてこの先輩は、ここぞというときに期待を裏切ってくるかっ。

 付き添いという口実で下着売り場に入って、円芭に似合いそうな下着を選ぼうと思ったのに。


 ちなみに、選びはするが、実際には購入しない。

 購入しても使い道はないし、プレゼントなんてしたら一生口を利いてもらえなくなってしまうからだ。


「今日は、買い物に付き合ってくれてありがとう」

「いえいえ」


 会計を済ませ、俺達は自転車を走らせて数十分。

 行きに待ち合わせにしていた正門前に到着した。

 礼を言ってきた高田先輩に微笑む。

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