第一章第ニ話ー5

 と言ったものの、俺もその気がしてならない。

 渦中の人物とプラス一名を家に招き入れ、リビングへ案内する。


「あれ、早いね」

「そんなことありませんよ。ただ家が近いだけですから」

「そうなんだ~」


 なんでこの人達こんなに仲悪いんだろ。

 後ろからピリピリした空気を感じる。


「なにか問題でもあるんですか?」

「何でもな~い」

「じゃあ、言わないでもらえますか。それと、何で祐の家高田先輩が知ってるんですか?」

「……」


 高田先輩!?

 黙られると円芭の言ったことを信じざるを得なくなってしまうのですが。

 そんな俺の願いもむなしく高田先輩は円芭から目を逸らしている。

 少し高田先輩と距離をあけなければ。

 酷くならない内に手を打っとかないと。


 ガチャ。

 ん? 

 心なしか玄関の方が騒がしい。

 現実逃避にはもってこいだ。


「「……」」


 あれ、そういえば妃奈子達の姿がない。

 いつの間にいなくなったんだろう。


「あれ、まだ諒来てないのね」


 と思っていたら、リビングの扉が開き、妃奈子達と共にやって来たのは諒の幼なじみ 長田おさだ磨莉まり

 ロングの黒髪がトレンドマーク。


「まだ来てないな」

「そうなのね。何やってるのかしら」

「さぁな」

「磨莉、諒のメアド知ってる?」

「知ってるけど、メッセージ送るのは遠慮したいわ」


 磨莉が意味不明なことを言い出した。

 どうして遠慮したいのだろうか。

 自分の幼なじみなのに。


「何で?」

「特に理由はないわ」

「……」


 誰かさんに似てるな。

 そんなことを思いながら円芭を見ようとしたが、何か危険な気がしたのでやめた。

 せっかく怒りの矛先が別にあるのにわざわざ自分からこちらへ向けるのは間違っている。


 ピンポーン。

 来客を知らせるチャイムが鳴り、妃奈子が応対した。

 どうやら対応的に諒達のようだ。

 数分後妃奈子と共に諒達が姿を現した。


「やぁ、皆の衆」

「キモッ」

「何が皆の衆よ」

「諒のやつ頭のネジ結構とれてるから」

「ああ~、なるほど」

「知ってる~」

「おいっ!」


 何はともあれ全員揃ったな。

 諒達が騒がしい中大人しい円芭と共に皆を誘導し全員で買い出しへ。

 場所は近くのデパート。


「男子は二階で待機!」


 駐輪場に自転車を止めてすぐ高田先輩が声をあげる。

 急に声を出すもんだから横にいた諒がビクッと肩を震わせた。


「何でですか?」

「サプライズだよっ」

「さ、サプライズ?」


 どうやら同性にもしっくりこなかったらしい。

 円芭と他の部員+一名も首を傾げている。

 無理もないよな。

 急に男を二階に向かわせるなんて言ったら。

 理解できてない感じの俺達を見て高田先輩はため息をついた。


「はぁ……。だから男子には何を作ったか内緒にするってこと!」

「なるほどっ」

「ただサプライズとか二階で待機しろとかじゃわからないですよ」

「ご、ごめん」


 しょぼんと高田先輩が肩を落とす。

 つか、ウチの妹凄いな。

 一番下なのに何も臆することなく二個先輩に楯突くなんて……。

 さすがあの親の子だな。


 ☆☆☆



 料理を持って、近くの公園。

 丁度いい桜の木下付近にブルーシートを敷き、俺らは腰を下ろした。

 桜満開ですごい花びらが舞っている

 まるで雨のように。


「丁度見頃でしょ?」

「そうだね」

「でも、散りすぎじゃないですか?」

「……まぁ、これも花見の醍醐味でしょ」


 こんなに桜が舞っているとは思わなかったらしい。

 周りを見渡してみてもほとんど花見客らしき人はいないので、高田先輩が肩を落としていく。

 そんな高田先輩を励ましつつ、髪にくっついた花びらを払う。

 明らかに花見を行える状況じゃない。


「とりあえず場所も決まって良かったです」

「そ、そうだね」

「「……」」


 円芭が座った流れで弁当箱を開けてしまった。

 こいつはバカかっ。

 案の定の結果に無言になる一同。

 外出の花見を中止にすれば良かった。

 今さら後悔しても遅いか……。

 まぁ、食べられないわけではないし、花びらを避けつつ口に含む。


「「あっ……」」


 食べちゃうの!? みたいな目線を向けてくる円芭達。

 そんな目線で見るほどおかしなことはしてないけど……。

 桜乗せ唐揚げとかむしろおしゃれだわ。


「ど、どう、祐」


 これは、円芭が作ったんだな。

 上目遣いで感想を聞いてきた。


「美味しいよ」

「……そう」


 あ、やばい。

 ストレートに言い過ぎたかな。

 下を向いてしまった円芭のつむじを見つめる。


「あ、あたしの作った玉子焼きも食べて!」


 今度は高田先輩が俺の取り皿に玉子焼きを乗せてきた。

 いびつな形をしてるので、高田先輩は料理があまり得意ではないのかもしれない。


 焦げてるし……。

 唐揚げの時と同じく桜の花びらが乗った玉子焼きを食べる。

 言われないと玉子焼きと判断するのは中々難しいかもしれない。


「……美味しくない?」


 まぁ、苦いよね。

 でも、食べられない味ではない。


「いえ、美味しいです」

「そっか。もっと上手くなるように頑張る!」

「この流れはあたしも出す流れよね」

「いや、別に違うとおも――」

「え? 何て言ったのかしら聞こえない」

「……何でもない」

「なら、いいけど」


 諒もなにかと大変なんだな。

 妙に親近感がわいてしまう。


「ちょっといいかな?」

「はい?」


 後方から声がしたので振り向くと、青い服が特徴的な警察官がいた。

 とっさに何かしたかと冷や汗がでる。


「お酒飲んでない?」

「飲んでないですよ」

「臭い嗅いでみたらどうですか?」

「……」


 円芭の言葉に検査する警察。

 余程こういう時期に飲酒する未成年が多いということなのかもしれない。

 近頃また飲酒する未成年が増えたっていうし。

 このような巡回は効果抜群だと思う。


「ありがとう。異常なかったから、あまり遅くならない時間に帰ってね」

「「分かりました」」

「それじゃ、ごゆっくり」


 去っていく警察官の背中を見て肩を落とす。

 何か疲れた。

 何も悪いことはしていないので、焦る必要なんて微塵もないがどうも身体が勝手に強張ってしまう。


「ねぇ、祐君」

「どうした、妃奈子」

「これ、あげる」

「腹一杯なのか?」

「うん……」


 警察の検査が入ってる中ずっと食べていたからな

 妃奈子の自業自得だが、捨てるのはもったいないのでもらっておこう。


「じゃあ、食べるよ」



「ちょっと待ったーー!!」



「な、何だよ」


 鼓膜が破れるかと思うほどの叫び声をあげ、円芭が俺の腕を掴んできた。

 何ごとかと少ない他の花見客がこっちを見ている。


「目立っちゃったよ、円ちゃん!」

「そんなことどうでもいいいのっ」

「いや、良くないでしょ……」


 このときばかりは妹がまともに見える……。


「円芭ちゃんの言う通り。周りの目なんかこの際どうでもいい」

「一緒にしないでくださいっ」

「好きで一緒にしてるんじゃないもん」

「とにかく、いつまでも兄妹で食べ掛けの食べ物の交換はよくないよ」

「うんうん!」

「間接キスって色々危険なのよ」


 何かこいつらみてると、野良猫同士のケンカみたいだ。

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