第三話「擬似恋愛略して擬似恋」

第一章第三話ー1

 花見といえば花見らしく会は幕を閉じた。

 花見は騒がしいイメージがあるけど、俺らみたいな騒ぎ方をしてる団体なんて絶対いないと思う。

 周りにあまり花見客がいなくて助かった。

 大勢いたらクレームが来ること間違いなしだ。


 学校生活で一番長くて短かった日曜日が終わり、時は巡りて本日水曜日。

 文化部にとって最悪の授業体育。

 しかも、サッカー。朝飯が進まない。


「どうしたの、祐。全然箸動いてないけど」


 お袋が俺の異変に気がついた。

 よく見ていらっしゃる。

 さすが親というべきか。


「いや、ちょっとな……」


 正直に言ったところで何も変わらないので、返答を濁しておく。

 どうせ仮病させてくれるわけでもないし。


「お母さんの作ったご飯じゃ嫌なんだよ」

「ガーン!」


 ショックの受け方にジェネレーションギャップを感じる。

 一応フォローしとくか。


「そういうことじゃない」

「じゃあ、どういうことなの?」

「言わないとダメ?」

「ダメ」


 何でだよ!

 そんな真顔でいうことじゃないだろ。

 ……仕方ない。

 後がめんどくさいから答えておくか。


「分かった。言うよ」

「最初から答えてなさいよ」

「それで、理由は?」

「体育が嫌なんだよ」

「「……」」


 答えさせておいて黙ることはないだろっ。

 リビングにある時計の時を刻む音が室内を満たす。


「そんなに嫌か」


 と思ったら、親父が沈黙を破ってきた。

 たまには空気の変化を察知することができるらしい。

 いつもこうならいいんだけどな。


「嫌だな」

「ダメだよ、祐。身長伸ばすんでしょ?」

「……何で今身長の話しになる」


 全く関係ないだろ。

 どこに因果関係があるのだろうか。


「いやいや、身体動かすと身長伸びる話知らない?」

「知らないな」

「バスケやってる人とかヤバいじゃん」

「いや、あれはバスケやってるからだからっ。というか、中には通常の背丈の人もいるし」

「……そう?」


 まばたきを数回して自信を無くした様子のお袋。

 もう少し裏を取った上で言って欲しいよな。

 大体遺伝もあるから。

 親がそこそこの身長なのに、高身長を望むのは無理があると思う。


「祐君、もう時間だよ」

「え?」


 妃奈子の指摘を受け時計を見ると、さぞかしギリギリの時を告げていた。


「マジかっ!」


 慌てて鞄を持って家を出る。

 ヤバいヤバいっ。

 諒との待ち合わせ場所に定時に着くか怪しい。

 でも、最近自転車に対してのルールが厳しくなったから飛ばして走るのは危険すぎるし。


「……」


 あれ?

 前方の歩行者信号の青待ちをしている一人の高校生。

 その人に見覚えがありすぎる。


「よっ」

「うわっ。なんだ祐か」


 やっぱり諒だった。

 ほぼ確実にこいつだとは分かっていたが、少しだけ違うやつだったらどうしようかとひやひやした。


「諒も遅かったのか」

「も?」

「俺も待ち合わせ時間に間に合わなくなりそうだった」

「何かあったのか?」

「ちょっと色々あってよ」

「お察しだわ~」


 何がお察しだわ~だよっ。

 信号が青に変わり、他人事のように言ってのける先を行く諒の後を追う。

 ようやく自分から先頭をきるようになった。


「今日一時間目体育だよな」

「ああ……」

「楽しみだな~」

「俺はソフトボールの方がどちらかというといいけど」

「いずれにせよ、楽しみなことに変わりないわ」


 クソ、こいつも敵だったか!



 ☆ ☆ ☆



 あ~、嫌だな。

 無事に何事もなく通学路を走り学校。

 朝のホームルームも終わってしまった。

 体操着に着替え校庭へやって来た我がクラスは、体育の担当教師を待っている。

 めんどくさい先生じゃなければいいんだけど。


「担当の教師遅いな」

「むしろ来ないでほしい」


 今一番の望みである。


「いやいや、そんなことあるわけないだろ」


 ……。はぁ……。

 憂鬱な気分で校舎の方へ視線を移すと、ラフな格好した男性がこちらへ歩いてきているのが見て取れた。

 来なくていいのに……。

 のそのそ歩いてくる体育担当教師は、こちらにやってくるなり早速口を開いた。


「今日は、サッカーをやります。準備運動が終わったら出席番号の奇数偶数に分かれて試合をしてください」


 と言って、きびすを返し近くのベンチに寝転んだ。

 えー……。

 こんな堂々と授業放棄する先生初めて見たわ。


「祐と敵だな」

「そう言えば、お前奇数だったか」

「まぁ、よろしく頼むわ」


 何を頼むんだ、何を。

 理解に苦しむ発言をした諒を尻目に、体育委員の指示に従う。

 完全に男女ともチーム分けが終了。


 文化部にとって、地獄の始まりである。

 適当にパスの来ないところに居ようかな。

 でも、まぁ、多分この競技の性質上どこにいてもボールはやってくるのだろうけど。

 少しでも長くボールから離れていたい。


「やぁ、祐」

「何だよ」

「ちゃんとやらないと成績悪くなるぞ」

「いや、見てないだろ」

「バカだな。目をつぶってるように見えて実は開いてるか、もしくは千里眼系の何かで見てたらどうする」


 何を真面目に訳の分からんことを言ってるんだ、こいつは!

 ドラマかアニメの観すぎだ。

 しかも、千里眼って何だよ。


「パスッパス」


 諒とつまらないことをしていたら、試合が始まりボールが動き出した。


「んじゃ、一回だけ触った方がいいと思うぞ」

「分かったよ」


 しょうがない。

 ボールが来れば蹴ろう。

 ボールは友達だし。


『今のオフサイドだ。男達!』


 な、なんだっ?

 つか、男達って……。

 先生へ振り向くと、ベンチから降り拡声器を手にしていた。

 あながち諒が言っていたことは間違いじゃないかもしれない。


『どこでオフサイドになったか分からないからめんどくさいからコーナーから蹴れっ』


 手を上げて先生に了承の意思を伝えたクラスメイトがボールをコーナーに運んだ。

 近くにいればどこでオフサイドになったか分かるだろ……。


「ほら、見てないようで見てたろ?」

「すまん」


 今回は完膚なきまでに俺が悪いので、素直に謝罪する。

 あんなナマケモノのような先生がまさかこんなてきぱき指導できるなんて思いもしなかった。


「まぁ、ハンバーガー屋だな」

「分かったよ……」


 こいつこれが目的だったなっ。

 ずる賢い諒を睨みながら、ボールの行く末を見守る。


「行くぞ」

「パスッ」

「パスッってお前敵だろっ」

「ちっ」


 何とも姑息な手段を取った味方のクラスメイトは舌打ちをし、ボールを追いかけた。

 こういうやり方もあるんだな。

 つか、中々俺のところにボールが来ない。

 時間も残りわずか。

 さすがに一回もボールに触れないのは成績的にマズい。

 これはもう自分から行くかっ。


『はい、終了っ』


 何でだよ!

 まだ十分くらいあるんですけど!


『次の時間の用意とかあるだろうから、今日は早めに終わりな』


「いい先生だ」


 どこかだよ。

 いや、まぁ、いい先生かもしれないけどさ。


「行こうぜ、祐」

「あぁ……」

「どうした?」

「何でもない」

「何でもないようには見えないけど」


 顔を覗き込んでくる諒の視線を避ける。

 まさか終わってしまったことにイラついたとは言えまい。



 ☆ ☆ ☆



 嘘も方便とはこの事をいうのだろう。

 めんどくさい諒に足をくじいたからとか適当に嘘をついた。

 というのも、本当のことを言ったらどうせバカにされるから。

 真実を言って悪い結果になると分かっているのに、わざわざ言う必要はあるまい。


 さて、現在放課後。

 今日は情報化学部ではなく、もうひとつ所属している部活美術部へ来ている。

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