ジェットロックサムダウン

ナツキライダー

第1話 渇いた愛の唄

 『完全管理都市ネクロス』そう呼ばれるこの街は800mの高い壁で覆われた絶対無敵の楽園である。

いつからかこの世界は藍色の雲で覆われ、鉛色のカーテンで遮られていた。その絶望から隔離されたこの低い空には数機のポリスヘリが舞い、常に我らを監視している。活気のない商店街では皆、同じような表情で「明日も頑張ろう」などと言う。

 舞台は日も落ちたネクロス中央広場、そこに立つ異様な男の一言で幕を上げる…。


「この世界には…愛が足りないぜ。」


 グレースケールの世界に真っ赤なハート帽と桃色装束のファンシーパンクロッケンローラー(以下ロッカー)が舞い降りた………。右手には弦のないテレキャスター、左手には愛とピックを握り締め…!


ドゥンドゥンドゥンドゥンドゥゥーンテドゥドゥーン


 コンクリートジャングルに重低音のベース・サウンドが乱反射し、まるで街そのものがビートボックスと化したような非日常が襲いかかる…!

 その彼にライブエフェクトの如くスポットライトが照射された。建物や路地裏で民衆が固唾を呑んで見守る中、ポリスヘリの拡声器から必殺の宣告が放たれる!


「貴様の行為は反社会的危険思想!秩序を乱すゲリラロックを行った罰だ…!罪の名は『突発的音楽活動による路上占拠』だ、総員射殺用意!」


 ポリスヘリの横スライドドアが開きガンメタルマスクのポリスアーミーが2名出現し、ヘリ横の小口径ガトリングガンの掃射を開始!ロッカーの足元にスパンコールが咲き乱れる!!


「お前たちの愛はそんなものか!」


 両腕を広げヘリのナイトビジョンゴーグルに訴え、こっちを見たのを確認し胸の前でハート型を作る!これぞラブコールサイン!


「チッ…これでも一応ポリスだからな、威嚇射撃くらいはしねぇと…なぁ?!」


 突如ポリスヘリ下部ハッチから放たれたロケットカノン!それを足場にワン・ツー・ロックのテンポで機内に飛び登るロッカー!挨拶代わりのボディブローを放つポリス!しかしそれは胴の寸前で止められていた…!


「貴様…ただのイカれロッケンローラーじゃないな!所属と名前を言え!」


 ポリスが尋問として突き付けた拳銃にヘッドスパンキングを浴びせ、魂のシャウトを決める…!


「愛の伝道師、ラブハート!モノクロ世界を熱情桃色ピンク色に染めるため、地獄のナイトクラブから蘇ったのだ!」


「ふざけるのは服装だけにしやがれよ!全身ピンクマンがッ!!」


 ポリスは拳を高速回転させ踏み込む、これはローリングストレングスパンチだ!フレミング右手の法則でさらに加速していく…ッ!マトモに喰らえばヒグマが4キロ先まで吹っ飛ぶ威力だ!

 狭いヘリの機内、常人ならかわす手立ては無いがパンクロッカーの属性を持つ彼には秘策がある。


『フェザータッチ・カウンター』


 甘く耳元でささやくように、パンチを優しく手のひらで包み込む。その暴力的な愛に屈し一人のポリスは崩れ落ちた!


ドゥンドゥンドゥンドゥドドドッドドドゥドゥ!


 弦のないテレキャスターはラブハートの心拍数と同期し再びベース・サウンドを奏で始める!魂のピックを削る音楽…それこそが!


「ラブグラインド…エフェクタァァァッ!」


ドゥーンドゥドゥーンドゥドゥドゥンドゥン!ハーリアー!


 全身に響くソウルミュージックはポリスヘリのリベットを引きちぎり大地へ招待する!墜落爆散した機体はバラバラに砕け散り辺りに降り注ぐ…。ポリスに対する圧倒的反逆行為の一部始終であった。


「愛の為に私は戦ってみせる…たとえ頭がハッピーラッキーと罵られようと!」


 そう言うとピンクの男はネオン街に消えていった。白昼夢でも見ていたのか、全く現実味が無い。後から来たポリスに尋問されても目撃者の答えは決まって「何アレ…?」だった。

 この一件に対し民衆は何も言うことは無かったが意見は真っ二つに別れていた。ロックピーポーとアンチロッカーだ。


「あの男のようにロッケンローラーになり人生を謳歌したい!」

「ああなってはいけない、私は堅実に生きる!」


 グレースケールの世界にカラーインクが零された…その瞬間を近くの味噌汁屋で見ていたダンシングファッキンガイ(以下ダフキン)はこう語る…。


「始まるんだよ…ジェットロックサムダウンが……。ん?あぁ、この街の住民なら誰もが見た夢さ。あんたは来たばっかだったな。1から10まで説明する気はない。精々生き残ってサムダウンを見届けていい記事を書きな!」


 この物語の主人公はさっきのラブハートやダフキンさんでもない。フリーライターとしてこの灰色の街『ネクロスシティ』に潜入したこの僕、小林カズマなんだ。


「ジェットロックサムダウン…これを記事に出来れば僕は有名になれるかな?」


 不安と期待が入り乱れる小林の背中をポンと叩くのは硬い機械の手、ダフキンさんだ。


「有名なんてもんじゃないさ…神だ、ゴッドライターだ!」


 ダフキンの顔のアクチュエータがチリチリと笑顔を作る。彼は全身義体のダンサーなのだ。ゆえに表情は少し硬い。


 ジェットロックサムダウン…そう呼ばれる伝説の謎を小林は追う!この街の闇を解き明かし、ゴッドライターになるために…!







 愛のビートに導かれ、羽虫の如く寄るポリス!

 一つ輝く地上のラブを、絶対秩序の月光が飲み込むッ!

 ファインダーから見る輝き……そこで小林は何を見る?!


次回『箱庭の月光』


 それは闇を貫く銀の羅刹!

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