【短編】ディエラー~怪獣の復活~

MrR

怪獣との戦いの記録とそれに至る経緯

 かつて、巨大生物が地球上を闊歩していた。

 どうしてそうなったのかは今でも分からない。


 その怪獣の中でも通常兵器では撃破不可能な生命体。

 それを総じて怪獣と呼ばれるようになった。

 その怪獣を倒す為に人類は一丸となって必死に戦った。

 だがそれでも徐々に人類は組織的抵抗が困難になる程に追い詰められていく。


 原因はあまりにも怪獣が強過ぎるからだ。


 奴達は通常兵器はおろか、核兵器すら通用しない個体がいる程に強い。


 一体殺すのにとんでもない犠牲と費用が掛かる。


 しかし人類はその二つの問題を解決する一手を残していた。


 それはミサイルや砲弾が効かない巨大怪獣を撃滅する為に、巨大ロボットを開発した。

 その巨大ロボット達は怪獣を次々と圧倒的なパワーで怪獣を粉砕していく。

 そうして人類は奇跡の快進撃を成し遂げ、最後の一体を倒してロボット達の戦いは伝説となり、そして平和と共に忘れ去られていく筈だった。


 ロボット達の総称、ディエラーと共に。


 

 -それから数十年の時が流れた-


 日本の東京湾でディエラーと怪獣がぶつかり合う。

 相手の怪獣は首長竜、海の恐竜として知られるプレシオサウルスを全長百m以上に巨大化させて攻撃的な背びれを付けた様な外観をしている。

 更にどう言う進化を辿ればそうなるのか超高密度に圧縮した水のレーザーを発射して次々とヘリや軍艦を撃墜していく。

 タフさも恐ろしく、対艦ミサイルの直撃を受けても平然としている。


 そこでディエラーを出動させた。


 今回出動したディエラー「ムサシ」の外観は流線的なスタイルとは程遠い、マッシブな外観の明らかにパワータイプのディエラーだ。


 腕も胴体も足も図太く、手は下手な戦艦程度なら握りつぶせそうな程に大きい。背中には大陸間弾道ミサイルと見間違えそうな程の巨大なブースターを背負っている。


 大きさは標準サイズの五十mを超える八十m級と、ディエラーの中ではヘビー級の部類に位置し、水陸両用のディエラーとして開発された。


 装甲も以前の大戦で爆発的に進歩した超科学技術で誕生したD合金であり、設計上は対艦ミサイルどころか核攻撃でも損傷は負うが耐えうる装甲を持つ。ムサシの場合はより強化されたD合金を搭載されている。


 動力は核融合炉を採用している。その為、未だにしぶとく生きている反日団体や政治家さん、怪獣で既に死に体の隣の反日国家TOP3から批判を受けている。


 長々と語ったがムサシは強力なディエラーだ。水陸両用でパワー型でムサシと名付ける辺り、設計者はきっとロボット物のファンだろう。


 視聴率が取れるため、報道ヘリが命懸けの生中継をお送りしている。


 報道ヘリのカメラの先で海上では全長百m級の怪獣と全高八十m級のディエラーとの壮絶なド付き合いを行っている。

 その余波で小規模な津波が発生している程だ。


『いいかげん死にやがれ!! この怪獣野郎!!』


 体の動きを直接伝える方式――マスタースレイブ方式、傍から見るとケーブルが付いたパワードスーツ着て台座の上でエクササイズしている様な操縦法だが――で男は悪戦苦闘していた。

 ムサシはパワータイプの宿命か、動きが他のディエラーと比べて遅いのが難点だ。

 対して敵怪獣はかなり素早い。てか生命体なので当たり前だ。基本戦法は肉を切らせて骨を断つ戦法になってしまう。

 他のロボットアニメのように遠距離武器でも搭載できればいいのだが、良くて牽制程度にしかならず、格闘戦では構造上の弱点になってしまうケースが多いのでディエラーは基本徒手空拳で戦う。

 大国では対国家間を前提としたディエラーの開発が進められ、通常兵器の搭載も行われたりもしているが……


 両者の戦いに視点を戻そう。

 怪獣の四肢のヒレ――ビンタは見掛けに寄らず強烈でダメージが蓄積している。時折長い尻尾を鞭の様に振るって叩き付けて来る。

 これで距離を離せば水の極太レーザーが飛んでくる鬼畜性能と来ている。

 だが相手のムサシも相手の首を掴んで思いっきり握りしめ、ねじ切ろうとしたり、胴体にボディーブローや振り下ろし式ハンマーパンチを叩き付けたりしている。

 相手の怪獣の口元から血が流れてるからダメージはあるのだろう。


『敵生体反応低下、もう少しです』


 オペレーターの女性から報告が入り、ムサシのパイロットはよっしゃと心の中でガッツポーズをする。

 確かに敵の動きが鈍くなって来ている。

 つまりもう少しで殺せるのだ。

 だからと言って首を掴んでいるゴツイ左手は離さないが。

 だが相手も必至だ。必死に暴れ狂い、伸し掛かり、海の底に沈めようとして来る。

 さっきから思いっきり伸し掛かろうとして来る。右手はそれを食い止める為に必死でパンチを続けていた。


『ええいこうなったら!!』


 パンチを止めて、両腕で首を掴む。

 相手はこれ幸いにと超重量に任せて海中へ押し潰すように誘導する。

 対してムサシのパイロットは両足を相手の胴体に押し付け、そのまま首を引っ張る。背中のブースターも全開だ。

 当然怪獣は暴れる。暴れ狂う。

 しかしムサシのパワーが勝った。


 長い首がやっと千切れたのだ。


 それでも胴体と首はジタバタともがいて気色悪かったがやがて生命活動を停止した。


『さて……こっからが大変だ……』


 怪獣の遺体処理。

 片づけ作業。

 始末書。


 などなど。


 やらなければならない事は沢山ある。


 後にこの怪獣はプレシオスと言う安直なネーミングと共にデーターが保存される事になるが正直彼――特務自衛官、安藤 玲二等特尉、二十八歳にとってはどうでもいい事だった。



 話は遡り数か月前。


 この頃の怪獣騒ぎは完全に過去の物となりつつあり、少なくとも先進国での目撃例はなくなっていた。


 日本も多くのディエラーを配備していたが時代と共に封印されていき、念の為に要所要所へと死蔵されていった。


 遂先日まで安藤 玲二は普通の陸上自衛官だった。

 ちなみに自衛隊のオタク率は高く、彼もその例に漏れず自衛隊が副業で本職がオタクの自衛官だ。

 復興して拡充された新東京ビックサイトの夏と冬のオタクの祭典には必ず両方足を運ぶレベルである。

 だが地震などの災害が起きれば上の命令でちゃんと出動するし、訓練も教官に目を付けられない範囲でキチンとこなす。ダメなのかどうなのか良く分からないオタク自衛官だ。


 もう何と言うかとある銀座に開いた異世界で活躍した自衛官と気が合いそうな奴である。 


 そんな彼はある時、基地祭の運営に大忙しだった。


 彼が所属するエリアA駐屯地はディエラーを今でも保管している重要な駐屯地の一つである。

 だがディエラーは核兵器に相当する扱いである上にその国の最先端技術の塊なので一般公開される事はない。


 ただこの当時は時代の経過に伴い、技術の断絶を防ぐ為や広報も兼ねて情報が流される事もしばしばある。

 特に自衛隊の場合は戦災復興の為に予算を減らされていると言う、お寒い懐事情もあり、金銭のやりくりで四苦八苦していた。


 そんな事などまるで他人事の様に安藤 玲二は日々平穏に基地祭で屋台を焼いていたある日の出来事だった。


 緊急の警報がけたたましく鳴り響く。


 安藤 玲二もくさっても、自衛官である。

 スイッチが切り替わり情報収集に努め、何があったかを調べ始める。

 しかし何が起きたか分かる前に、駐屯地近くの平原にソイツは地響きを立てて降り立った。


 ソイツは機械と生物が融合した様な外観をしていた。

 ゴーグルの様な目。

 頭頂から生える一本角。

 大きな嘴。

 両腕のかぎ爪、

 背中から生える翼幕が付いた羽。

 刺々しい尻尾。

 六十m以上の全高を支える大きな太い足。

 灰色の宇宙怪獣。


 怪獣は何も海や地中から出現するだけでなく、何処からともなく宇宙から飛来するケースも確認されている。

 かつての大戦でも背後に高度な文明を誇る侵略者がいたと言われているが未だに良く分かってはいない。


 すでに対怪獣法が適用されて、自衛隊も攻撃を加えている。

 メ―サー砲や対怪獣用の大型弾頭や特殊徹甲弾まで撃ち込まれ、派手に爆発が起きている。

 しかし総じて宇宙産の怪獣は地球産の怪獣より強力である。

 ダメージは受けているがそれでも反撃を行い、口から怪光線、角から電撃放射を行っている。


 後に宇宙改造獣タロスと名付けられる怪獣との戦いの始まりだった。


「おいおい、嘘だろ!?」


 まず安藤 玲二は一般人の避難誘導を行う事となった。

 しかし問題なのは何処に避難させるかだった。

 怪獣の行動を予測するのは難しい。避難させた先で怪獣と遭遇なんてのは絶対にあってはならないのだ。


 しばし遅れてようやく、出来るだけ駐屯地から遠ざける様にと言う事になった。


 その後、戦闘態勢を取ると言う事になる。


「本当に突然過ぎるだろ!?」


「どうしてこうなった!?」


「畜生、マジで怪獣とやり合うのかよ……」


 周りの自衛官達は避難誘導させながら口々に呟く。

 自衛隊もあらゆる事態を想定して訓練を積んでいるが怪獣と戦うのは初めての経験者が多い。

 皆顔を真っ青にしている。


 安藤 玲二は一先ず、怪獣と戦う事を頭の隅にやり、指示を受け、時には飛ばして避難誘導に専念する。


 そんな時だった。

一人の女性が寄って来た。


「すいません、子供達を探してるんです!! はぐれてしまって――」


「こ、子供達!? ど、何処に行ったかは心当たりは?」


 子供と言う単語が出て来て一瞬あらぬ想像をしたが、今はそんな場合ではないと言い聞かせて訊ねる。


「ディエラーを熱心に探していましたが……」


「ディエラーを?」


「はい――基地祭で見に行くって言って聞かなくて――でもあるのは着ぐるみので何かガッカリして――と、とにかくその、本当にまだ小さい小学生の子供達何です!」


「分かりました。責任を持って探します」


 参ったなこりゃと頭を抱えながら基地司令に応答した。

 この駐屯地はザル警備では無い筈だが万が一と言う事もある。

 走って格納庫に向かった。



(ロックが解除されている――嫌な予感がするぞ――)


 子供を探してる最中、不思議な事が起こった。


 何とディエラーへと繋がるゲートへのロックが解除されていたのだ。

 その事に嫌な予感を覚えながらも一人安藤 玲は格納庫へと向かう。

 どの道今の状況では警備部隊も禄に動けないだろう。

 だから一人で行くしかなかった。


 地響きが段々と大きくなっている。

 この基地に怪獣が接近しているのだろうか?

 とにかく急いだ方がいいと思いつつ足を速める。


(銃声?)


 格納庫に近付くに連れて激しい銃声が聞こえる。

 一体全体何が起きているのだろうか?

 そうして格納庫に辿り着いて見た物は銃撃戦だった。


「本当にどうなってるんだ!?」


 と思いながら身を隠す。

 辺りには様々な電子機器やコンテナが置かれている。


「救援が来たと思ったらたったの一人か」


 と、偶々近くにいた年配のオジさんにそう言われた。

 銃を握りしめ、肩から出血をしている。


「ここで何が?」 


「さあな。大方どっかの国の工作員がこのディエラーを奪取しようとか考えたんじゃろ。目的は分からんがな」


「んな使い古されたネタ現実に――」  


「起きてるんじゃよ。それよりもどうにかしなければ――」


「そうだ。ここに子供は?」


「ああ、いたぞ。運悪くこの騒動に巻き込まれた。どうにか非常用の階段で逃がしたが――地上では何が起きている?」


 どうやら入れ違いになったようだ。ホッとしつつも「怪獣が現れたんです」と告げた。


「まあ確かにこの懐かしい地響きはそうじゃろうな――何処から現れた奴だ?」 


「空の彼方から降って来ました」


「よりにもよって宇宙産か……現代の装備でも対抗は難しいじゃろう」


 口振りや重苦しい表情からして怪獣だらけの地獄を見て来たのだろう。

 玲は何と言えば良いのか分からなくなった。


「ともかくディエラーを発進させなければ」


「ディエラーを? でもアレは内閣の承認が――」


「そんな事していたら奴達に奪われるし、多くの人間が怪獣に殺される! おい若いの、パイロットスーツを見つけ出してあれに乗れ! ワシがどうにか援護する!!」


「援護って――この状況下で!? んな無茶な!?」


「無茶でもしなければこの状況を打破できん! いけ!」


「りょ、了解――」


 とにかく必死だった。

 司令に連絡を入れ、警備部隊に増援を寄こすように言ったがソレまでに奪取されるだろう。


 二人でパイロットスーツがある保管庫に向かい、着用して一気に銃弾の雨を掻い潜りながらディエラーの傍まで走り抜ける。

 何時の間にか自分が操縦して戦う流れになっているのが大いに謎であるが。

 まるでロボットアニメのテンプレ展開だ。

 これで自分が十代の少年なら完璧だとか色々と頭の中で愚痴りつつコクピットがある頭部までハンガーのエレベーターで昇った。


 そこでは既にこの基地の保管されていた濃い緑色のディエラーが謎の敵の手で搭乗段階まで進められている。


 背中に二門の大砲を背負い、大型の銃火器が仕込まれたディエラーにしては火器が豊富な機種、雷電だ。


 何やら聞き覚えのある言語で悪態を尽きながら銃を乱射してくる。

 しかし知り合ったばかりの、名前の知らないオヤジさん、それも整備員が雄叫びを挙げて銃を乱射しながら突撃する。

 あっと言う間に搭乗前の敵を倒した――ところで倒れ込んだ。

 急いで駆け寄る。


「アンタ!! どうしてこんな無茶を!!」


「こいつはワシの息子の様なもんじゃ、多くの命を、多くの願いが……込められている――行け、行って使命を果たして来い」


「おい、嘘だろ! 俺にそんな――」


「―――」


「畜生!」


 安藤 玲はその場にゆっくりと亡骸を置き、コクピットから操作しようとしていた何処ぞの国の大馬鹿野郎を引き摺りだして乱暴に捨てた。

 そしてディエラーに搭乗する。

 幸いにも、もう動かせる段階まで来ていた。

 ヘルメットを被り、スーツから伸びるケーブルを刺して台座に体を固定する。


『だ、誰が乗ってるんですか!?』


 女性のオペレーターらしき顔がヘルメットに表示される。


『此方、陸上自衛隊エリアA駐屯地所属の安藤玲二等陸曹!! 緊急ながらディエラー雷電に搭乗した!! 武装勢力に対して攻撃許可されたし!!』


『此方エリアA駐屯地の鹿島一佐だ。責任は私が取る。やりたまえ。』


『し、司令!?』 


『了解しました!!』


『ノリコ三尉! 出動準備だ!!』


『りょ、了解!!』


 トントン拍子で始まっていく。


 眼前のメインスクリーンに外の光景が映し出される。

 初めて見る巨人の視点に軽い感動すら覚える。


(ともかく敵を倒さないと――)


 この雷電は様々な武器を使う都合上、台座から様々な武器を使う為のスティックレバーなどが台座の背後から伸びる機器から繋がっていた。

 躊躇わず、武装勢力に向かって頭部のバルカン砲を発射する。

 口径は三十mmで最新鋭の戦車でも上面装甲に当たれば只では済まない破壊力だ。


 逃げようとしたが血の霧が舞い、あっと言う間に殲滅された。


『武装勢力、殲滅完了』


『すまないが、もう時間がない!! 時間稼ぎだけでいい!! 怪獣との戦闘に移ってくれ!!』


『りょ、了解!!』


 自衛隊はよく軍隊ではないと言われるが上からの命令は絶対服従なのは変わらない。

 何となくそんな気はしてたが緊張感でどうにかなりそうだった。

 そのままリフトアップされる。


(格納庫内だと今一実感沸かなかったけど、これがディエラーから見える世界か――)


 全高五十m以上から見える景色。

 胴体のコクピットのモニターに映し出されるだけだがそれでも圧巻だった。

 あの広かったエリアA駐屯地がとても狭く感じる。

 建物がまるで精巧なジオラマの様だ。

 今立っている場所は格納庫前の正面。

 ディエラーが基地の外に出られるように前面には広い空間が広がっている。


(怪獣は何処に?)


 キョロキョロと見渡す。

 今の自分と同じぐらい馬鹿でかい怪獣の姿が見当たらない。

 変わりにとんでもない物を見付けてしまった。


『気を付けて! 上に居ます!!』


『クソ!!』


 オペレーターの忠告と共に急降下して来た。

 プレスである。

 玲は回避する事もなく、それを受け止める。

 凄まじい地響きと共に衝撃が体を突き抜けた。


『どうして回避しないの!?』


『こ、子供が!! 民間人がまだ残ってる!! 自衛官も一緒だ!!』  


 横に目をやると子供達が腰を抜かして倒れ込んでいた。

 自衛官も同じだ。


『そ、そんな! まだいたの!?』


『恐らくパニックになって走り回っていたんだろう!! 今やっと捕まえた!!』


 自分がこのディエラーの乗るキッカケを作った迷子の子供達だろう。

 格納庫の騒ぎでパニックに陥り出鱈目に走り回り、自衛官すらも恐怖の対象になってしまったのだろうと思う。

 ようやくお縄に掛かり、全力疾走で離れていく。

 その間にも怪獣が踏み付けて来てその度に凄まじい衝撃が走る。


『こいついい加減離れろ!!』


 至近距離から出鱈目に雷電に搭載された内臓火器を発射する。

 頭部の30mm機関砲、両腕部に内蔵された127mm(イージス艦の艦砲と同レベル)徹甲弾が炸裂して怪獣はよろける。

 その隙に各部のスラスターやブースターで態勢建て直し、顔面を思いっきり殴り飛ばす。

 重い一撃が入ったのが機体を通して自分の体に伝わる。


『安藤二曽!! 基地内での重火器使用は控えて肉弾戦で対処して下さい!!』


『了解!!』


 正直、周りの被害を考えながら戦える相手ではないが幸い相手はグロッキーの状態だ。

 全ブーストを吹かし、思いっきり全体重を乗せてタックルし、そのまま引き摺り出し、長年の間バトルフィールドとして予め用意されていた無人の平野に叩き出す。

 そこから一旦相手から離れ、着地し相手が起き上がる前に攻撃を開始する。


『お次はこれだ!!』


 頭部側面の肩部のハッチが開かれ、大きな弾が放出された。

 その弾は放物線を描いて飛んでいき、着弾。

 大爆発を起こす。

 対怪獣用超高温ナパーム爆弾である。

 ようは怪獣を爆発で殺す為ではなく、焼き殺す為の兵装だ。


 しかし怪獣の生命力は玲二の想像を超えていた。

 体が火達磨になりながらも立ち上がり、走りながら口から光線を発射して来る。

 右腕部で咄嗟に光線をガードし、火花が散る。続いて助走を付けて勢いが上乗せされたカギ爪が振るわれ、右腕が吹き飛んだ。

 更には尻尾を叩き付けられ、地面に倒れ伏してしまう。


『クソ――』


 しかしここで航空自衛隊、陸上自衛隊の皆様方が待ってましたと言わんばかりに攻撃を再開する。、

 長距離からの砲弾、攻撃ヘリのからの集中砲火。戦闘機からの一撃離脱の攻撃。次々と怪獣に攻撃が突き刺さる。


 しかしそれでも怪獣は倒れない。

 負けじと反撃の光線や電撃を行うが自衛隊側もどうにか避けていく。


『今のウチに雷電の最終兵器を使ってください!!』


『最終兵器?』


 オペレーターから通達が来た。

 ヘルメットの画面に両肩のキャノン砲が表示される。


『ツインメ―サーキャノンです!! ただチャージに時間が掛かります!!』


『メ―サーってあのメ―サーか!? 分かった!!』


 メ―サー兵器。

 対怪獣用に開発された兵器の一つで、嘗ては架空の兵器の一つだった。

 どんな兵器かと言うと早い話が電子レンジなどに使われるマイクロ波を浴びせて生物の細胞を焼き殺すと言うエグイ兵器の事である。

 それも第二次世界大戦の戦艦クラスの二門の大砲から放たれるのだ。

 威力がどれぐらいなのか想像もつかない。


『右腕へのエネルギー伝達をオフ、チャージまで10秒!! 9、8、7、6、5、4、3、2、1――いけます!!』


『発射!!』


 迷わず発射を選択。

 極太の閃光が雷電の両肩から放たれた。 

 自衛隊達に翻弄されていた怪獣に直撃。

 目が眩む程の眩い閃光と共に大爆発を起こし、そのまま体がバラバラになって吹き飛んだ。


『お、終わったのか?』


 これが安藤 玲二の初めての怪獣退治である。



 その後、安藤 玲二は防衛大臣直々に表彰され、市民から拍手喝采の大感謝を受けて異例の昇進となった。

 正直懲戒免職を覚悟していた安藤 玲二は首を傾げた。

 一応駐屯地の司令から「責任は取る」と言質は取ってあるが、状況に流され、正直自衛官として失格な部分も多々あると思っていた。例えそれが大勢の命を救ったと言う結果を残してもだ。


 勝った喜びよりも後になって、雷電に導いてくれたおやっさんの事が頭から離れなかった。

 後から調べた事だが彼の名は松島 丈一で嘗ての怪獣との闘いを生き延びた叩き上げの整備主任らしくエリアA駐屯地ので整備主任として定年退職を迎えるつもりだったそうだ。

 正直安藤 玲は雷電で怪獣を撃退出来たのはこの男の活躍や信念が大きいと今でも思っている。


 そして謎の工作員だが、ことある事に日本に口出しする、うるさい国の工作員である事が判明している。

 どうやら生き延びていた奴がいたらしく、騒動に乗じて逃げようとしたがとっ捕まえられたらしい。

 玲二としては、正直もうどうでも良かった。


 次に――


「子供達がご迷惑お掛けしました」


 駐屯地の避難誘導する際に出会った少女や孤児院の女性院長、そして子供達が頭を下げた。

 子供達に至っては泣きながら頭を下げている。

 彼達は安藤 玲二が格納庫に向かうキッカケを作った子供達を引き取っている孤児院の面々だ。

 正直何て言えば良いのか複雑な気持ちだった。


 一度に多くの事が起きたせいもある。


 結局納得した返事が考えられないまま愛想笑いして「もういいです」と答えた。


 最後に安藤 玲二は所属を陸上自衛隊から特務自衛隊へと所属を転向させ、本格的なディエラーの操縦訓練を受ける羽目になった。

 これが一番の災難だった。

 そして上司を悩ませる事となった。


 先ず特務自衛官とは組織の垣根を超えて怪獣対策を専門的に行う部署だが、近年怪獣は日本で出現報告が無かった為にどんどん規模が縮小化されて居き、ほぼ閉鎖されていた部署だ。

 しかし数十年ぶりに現れたために復活する事となる。


 最初は偶々レベルに思われたが、第二、第三と怪獣があらゆる場所から出現を始めたのである。


 当初は安藤 玲二が駆り出される事は無かったが所属していたパイロットもブランクがあったり、シュミレーターでしか経験が無かったり、そもそも怪獣と戦う心構えが無かったりと前途多難な状況からの再スタートとなった。


 そしてディエラーの訓練は過酷で何度も玲二は平然と投げ出して辞職しようとしたが、その度に上司や各方面の有力者から必死の説得でどうにか留まった。


 とある創作物の、某銀座に開いた異世界で活躍した自衛官に使った同じ手口(*年末と夏に十分な特別休暇をやる)を玲二にも使ったと言われるが真相は定かではない。 


 そうしてこうして様々な困難を乗り越え、安藤 玲二特務二尉は今に至るのである。

 怪獣の殺が……撃破数もプレシオスを含め五体を超え、遂にエースになってしまった。   

 お上の事情の翻弄されて様々な機体に乗った末の成果である。


 そして今日も彼は戦う。


 ディエラーのパイロットとして。


 怪獣から市民を守る為に。  


【END】 

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