吾輩は
たんばりんたろう
吾輩は
1
吾輩は猫である。名前はもうない。
というのも、少し前に自分の名前を忘れてしまった。まぁ、あろうがなかろうが、結局猫には変わりないしどうでもいいかとか思い始めているところである。これは吾輩の世界一どうでもいい物語である。
2
我輩はとある公園に生活している。つまりここが吾輩の物語のスタート地点である。とはいったものの最近こちらに引っ越してきたばかりなので、まだ慣れないというのが正直な感想である。また、吾輩は以前までは人間に飼われていた身。つまりペットだったのだ。自然界でのサバイバル生活にはいささか不安ではあるが、なんとか生き延びていきたいと思う所存である。
3
ここでの生活にも少しずつ慣れてきた頃である。最初の頃はやはり勝手がわからずその日の飯にありつけるので精一杯だったが、最近はその辺を散歩する余裕もできるようになった。
そんな吾輩だが、いまだに慣れない。そして今後慣れることのないと思われることが一つだけあった。
人の子による暴力だ。
今の時代もやはりこういうやつは少なからずいるらしい。猫に喧嘩を仕掛けて、それに勝って何が誇らしいのだろうか?吾輩にはわからぬ。僕がお前らくらいの時はもっとこう…
少し頭が痛くなってきたので今日は休もう。
4
しかし、人間は悪い奴らだけではないのは吾輩は知っている。今日も吾輩たち(この公園に他に何匹かの猫がいる)に餌を与えてくれる、天使のような人が来てくれたのだ。いま自分が生きているのはこの人たちのおかげと言っても過言ではないだろう。もっと早くに人の優しさに触れていたら、僕はもっと違う人生を送れたのかもしれない。
少しわがままを言えば吾輩は猫なので熱いのは少し冷ましてほしい。
5
今日は仲間の猫が死んだ。原因は見ればすぐわかった。体中には殴られた跡があった。僕は人間を許せなかった。しかし、この公園のリーダーはボソっとこう言った。
「俺たちに生きる資格なんてねぇのかもな」
周りの奴らも何も言えなくなる。僕は人間がさらに嫌いになった。
6
前の飼い主を見かけた。吾輩を愛してくれた人。吾輩が幸せにしようとした人。僕を捨てた人。僕を裏切った人。彼女といた時間は幸せなものだった。それだから、あの日の言葉を忘れることができないのだ。今までの愛や幸せを全否定し、僕を捨てるため、裏切るために放った言葉
「これからは別々の道を歩みましょう」
7
僕はこんなところで何してるんだろう?
8
リーダーが吾輩の前までの暮らしを訪ねてきた。まっ黒な所での生活。そして最後に捨てられるなんて話を聞いて何が面白いのだろうか?少なくとも、僕はいい気がしない。
9
今日は天使さん(ご飯を与えてくれる人)が来てくれた。吾輩はなんとなく、なんで吾輩たちにこんなことをしてくれるのかを訪ねた。彼女はとびっきりの笑顔でこう言った。
「幸せはみんなのものですから」
久しぶりに僕の声が人に届いた。
久しぶりに人の声が僕に届いた。
10
最近はよく冷える。温かい飯が食いたい。彼女と話をしたい。
11
僕の名前が思い出せそうな気がした
12
吾輩は、優しさを知った。愛は忘れた。恋をしている?
13
人を幸せにするには愛情とかじゃなくて、金が必要なんだよ。金があってそこで初めて愛し合うことができるんだ。リーダーは僕にヒントをくれた
14
働きたいなんて久しぶりに思った。まだ、怖いと思ってるけど。
15
また、地獄のような日々が続くのかもしれない。使い切ったらまた捨てられるかもしれない。
16
でも、彼女を幸せにしたいなんて思ったりしちゃったりして
17
名前を思い出した。
18
吾輩は猫ではない。名前だってちゃんとあるのだ。
つまり、
僕は人間である。名前は最近やっと思い出した。僕の物語はここからリスタートする。
吾輩は たんばりんたろう @tanbarin_taro
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