気高き戦士に揺るがぬ決意を

けねでぃ

第1話

 嫁ぐ先が決まったと知らされたのは、昨日の夜だった。前々から相手の人達とは面識があるし、それぞれの家が親密になるためには、政略結婚を通じ混じり合っていくのが一番穏やかに済むだろう、とお義父様が言っていた。私が住んでいる今の家はこの地方でもそれなりに有名な家で、相手も同じくらいには有名な家だ。この家であまりよい扱いを受けてこなかった私からすると、この結婚はそれなりにまともな選択肢に見える。少なくとも、今よりはマシな生活が待っているのだろう。

 目覚めの時間である。なんとかベッド抜け出し、着替える。ボサボサの髪の毛を整える。シャツにロングスカートといういつものスタイルは締め付けられる感覚が少なくて、とても気に入っている。

 支度をしていると、部屋の扉をノックする音が聞こえる。声をかけると失礼します、という声と共にメイドが入ってくる。

「ラナン様、本日の朝食をお持ちいたしました」

「ありがとうございます、アスカ」

 メイドに挨拶をし、朝食を摂る。二十日ほど前にこのメイドに担当が変わったらしく、アスカというこのメイドは担当になってから朝食の時に私との雑談に付き合ってくれる、名前だけではなく行動もなかなかに珍妙なメイドであった。本日の朝食は、と彼女がメニューの解説をしてくれるが、全くもって知識のない私からすると美味しい、か美味しくない、の二択しかなかった。一口頂いた本日の朝食の感想は美味しいの方だった。

「ラナン様、本日は結婚相手とこの屋敷についてお話をしようと思います。ラナン様が今住んでいる、この家の家系は代々ゴーレムを操る魔法に長けた家系でした。それはお義父様からも散々聞かされていると思います。また、ゴーレムだけではなく、死者の魂を司る魔法にも長けた家系です。今回の結婚相手はこの家とは別の魔法に長けた家系と聞いています。その二つが混じり合うことで何か革命が起こせないかと考えたお義父様はその政略結婚の橋渡しとして、容姿端麗な貴女を選んだ、というわけですね」

「えぇ、そのようですね。六年前、お義父様は婿様と私を結婚させるために孤児である私を孤児院から引き取ったと前任のメイドから聞きました」

「私も他のメイド達からその話は聞かせていただきました。この家での生活も含め、これまで不幸だった分、嫁ぎ先でもこれまで以上に幸せになってほしい、と私は思います」

 私の担当になってからずっと見せている営業スマイルを今日も披露するアスカ。

「この家はゴーレムの扱いに長けた家だからこそ、警備装置はゴーレムが中心になっているのでしょうか」

「二、三週間勤めただけなので私も詳しくはわかりませんが、そうだと思います。この屋敷の警備装置、精度は良いと聞きますが、実は結構欠陥だらけとも聞きます。他の魔法で警備装置の強化を測ることも目的と仰られていましたね。そう言えば。しかしやはり一番の目的は相手の家とのコネクションを作り、お義母様や実の娘が他の魔法を学ぶきっかけを作ることだと思います」

 実はお義母様がこの家で一番魔法の扱いに長けているという話もたまに聞く。

「いきなり見ず知らずの人の家に突撃し、仲良くしようと言っても、いくら有名なこの家でも流石に怪しまれてしまいますからね。バカな私でもそれくらいはわかります」

 逆に、礼儀作法の勉強しかしていないのでこれくらいしかわからない。

「そうですね。二つの魔法の融合はおそらく良い方向に動くと思います。他のメイド達はラナン様より実の娘の方が嫁がせるには適任だと主張する者もいます。しかし、私は実の娘より貴女様が名誉ある結婚に選ばれるべきだと思います」

「ありがとうございます。そう言ってくださるのはアスカくらいなものです」

 周りからお前は容姿だけが取り柄だ、と言われ続けて早六年。容姿以外なら実の娘の方が適任のようなので、実は嫁がせるのは私ではなくても良いらしい。そういう背景もあり、私がいなくても代わりがいる、というのがこの屋敷の基本的なスタンスである。代わりがいるなら、本命がいるなら、別に私が果ててもどうでもいいのだろう。この屋敷での私の扱いはとてもいいと言える物ではなかった。最近ではこのメイド、アスカだけが私と対等に接してくれた。

「ごちそうさまでした。今日もありがとうございます、アスカ。残り少ない日数ですが、こうして私とお話ししてくださると嬉しいですわ」

「ラナン様が楽しいと仰るならば、私、最終日までこうして貴女様とお話ししようと思います」

 ニッコリ笑い、食器を片付けるアスカ。こうして朝の雑談の時間は終わった。今日も夜まで礼儀作法の勉強だけして終わるのだろうか。私は十歳の時この家に来た。それから今日に至るまで、礼儀作法の勉強ばかりさせられ、特に魔法に関することは学ばなかった。それこそゴーレムを操る魔法に長けた一族の家に来たにも関わらず。やはりというか私のことは政略結婚の道具としてしか見ていないのかもしれない。机の上にある両親と写っている私の写真を見る。何故私の両親は死んでしまったのだろうか。ちゃんとは覚えていないが、たしかバイクか何かの爆破事故に巻き込まれて木っ端微塵になって死んだとか聞いたような気もする。今となっては考えても仕方のないことでもある。私に深い愛を注いでくれた両親はもういないのだ。木っ端微塵になっては蘇生魔法で蘇生させることもできないと、先日アスカから聞いた。

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