眠りの姫に救いの未来を エピソードN

けねでぃ

第1話

 リリーちゃんが失踪して、ついに一週間が経った。携帯もメールも連絡がつかないし、家にも会社にも立ち寄った痕跡はないそうだ。友人の情報網を頼りになんとかこの建物に軟禁されているらしいとの情報まではたどり着いた。問題はその先である。この建物、妙にセキュリティが厳しい。正面玄関から入ろうにも入館証が必要で、裏口に回ろうにも、警備ロボットに追い掛け回される始末だ。

 足の速さには人並み以上の自信がある。身軽さもだ。しかしそれでも警備ロボットの目は潜り抜けられなかった。潜り抜けられないどころかそのまま警備ロボットの攻撃を受け怪我までしてしまう始末だ。

 結局今回も路地裏で応急処置をして撤収になりそうだ。そう思い、足の怪我の処理をしていると目の前に人の気配を感じた。ふっと目線を上げるとそこには女子高生が立っていた。

 なぜ女子高生だとわかったのかというと、着ている服が制服を彷彿とさせたからだ。灰色のブレザーにピンクのワイシャツ、赤いリボン、黒がベースのモノクロチェックのスカート。スカートの下にスパッツを履いていたことと、左手だけ茶色の手袋をしていたことだけに違和感を覚えたがまぁ誤差の範囲だろう。肩に烏を載せているが一般的な女子高生のファッションと言える。

 私に何か用だろうか。声をかけると彼女は妙に通りの良い声で答える。

「あぁ、これからあそこの建物に用があるんだ。その道中、お前がここで怪我の治療をしていたから見ていたというわけだ」

 彼女はあろうことか、私と同じ目標地点へ向かおうとしているらしい。思わず私は彼女にたずねる。

「しかしあのビルは妙にセキュリティが厳しい。君にあそこに入れる手段があるのかい?」

「あぁ、あるとも。警備ロボットのいない区画を飛んでいく」

 は? この子はなにを言っているのだろうか。飛ぶ? 

「そう。飛ぶんだ。烏のように、ね」

 なるほどよくわからんがこの子には中に入る手段があるらしい。大げさなことを言ってはいるが、おそらくハングライダーか何かだろう。少なくとも私一人では入れなかった建物だ。この子にかけてみる価値は大いにあるだろう。

「君、あの建物に入るならば、私も一緒に連れて行ってくれないか? あの建物には私も用があるんだ」

「足手まといが増えるだけじゃないか。自分の足と相談してから発言したらどうだ」

「これでも私は身軽なんだぞ? 運動もできる。君の足手まといになるとは思わない」

「怪我はどうするんだ」

「気合い」

「これから行くところは遊園地とかサバイバルゲームか何かの会場じゃない。冗談抜きで生死に関わることも起こるかもしれない。それでもいいのか」

「消えた友達を助けるためなら、そのくらい厭わない」

「消えた友達、ね。なるほどこれも運命なのかもしれないな。わかった。行こう」

 そういいつつ彼女は私に金属バットを投げてよこす。どっからだしたんだ。

「自分の身を守るために、最低限そのくらいはあるといいだろう。その金属バットはかなりいい性能だ。お前なら使いこなせると思う」

 言われてみると、確かに軽い。使い心地はかなりよさそうだ。お礼を返す。

「ありがとう。私の名前はニア。貴女の名前は?」

「ハルナ。神城ハルナだ。ハルナでいい。それとこの肩の相棒が烏のポコだ。よろしく頼む」

 彼女が右手を差し伸べる。なんだ、案外礼儀のできる女子高生じゃないか。話し方からしてどっかのヤンキーかと思ったか、そういう話ではないらしい。彼女と握手をし、私たちは目的地へと向かうことにした。

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