エピローグ

「お客様、お客様」


 私は声を聞いて目を覚ました。どうやらカウンターで眠っていたらしい。

 喫茶店の雰囲気が良くてついつい眠ってしまっていたのだけれど、もしかして怒られちゃうのかしら……?


「良かった。眠っていらしたのですね。少し安心しました」


 カウンターの向こう側には一人の青年が立っていた。

 首筋の近くの肌が鱗のようになっている彼は、確か自らをドラゴニュートと呼んでいたような気がする。


「……あ、すいません。つい雰囲気が良くて長居しちゃったみたいで……。もう帰ります」

「いえいえ、大丈夫ですよ。眠気覚ましにコーヒーはいかがですか?」

「……頂いちゃおうかしら」


 優しいなあ、マスターさん。

 そんなことを思いながら頂いたコーヒーを一口。芳醇な香りと苦みが口の中に広がった。やっぱりカフェインは眠気に一番ね。

 私はコーヒーをある程度ゆっくりと飲み干すと、代金を置いてボルケイノの扉を開けた。


「ありがとうございました、またのご来店をお待ちしております」


 マスターさんの言葉を聞いて、私は外に出た。

 外に出ると、車のクラクションが五月蠅く聞こえてくる。いつもの喧噪、いつもの日常。だけれどあそこに向かうと何故だか気分が明るくなって――。


「あれ……? 何で私、あそこのことを知っているのだろう……。初めて行ったはずなのに……」


 それに、何か心の中がぽっかり穴が開いたような感覚がする。

 何か大事なことを忘れてしまっているような、そんな感覚。


「何だろう……胸騒ぎがする……。一度戻ってみた方が良いのかな」


 そう思って振り返って見るも、扉は消えていた。


「あ……」


 確かあの扉の向こうは私たちの住む世界とは別の世界だったと覚えている。

 あれ……これもどうして覚えているのだろうか?

 ああ、きっとマスターさんから聞いたんだろうな。マスターさん、かっこよかったし。

 でも何かを忘れているような気がするのだけれど――でも解決出来ないから、今は家に帰るしかない。

 そう思って私は、帰路につくのだった。

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