異世界ゲーム

クロマメ

一章 始まりは突然に Ⅰ

「あー、暇だなー」

「それ何回言ってんの、あんた」

「だって、ほんっとーのほんっとーに、暇過ぎてたまらないんだもん」

2月10日、午後2時。

自宅のリビングにて。

私、綾瀬彩歌は、嘆いていた。

自分の────いや、この世界の「暇」を。

今じゃ、世界は暇過ぎる。

平和で安心だけど、でも、暇すぎる。

何か、危ない事でも起きないものだろうか。

何か、平和を脅かす様なことが。

いや別に、平和が嫌いな訳じゃない。

平和大好きだよ?

うん、好き好き大好き。

でも、今の世界は、平和のせいでは無いのだけれど─────とにかく、暇過ぎてつまらないのだ。

私、これでも結構普通大好き人間なんだけれども。

でも、隕石の一つや二つでも落ちてきてくれないかなー?なんて考えを持っている。

理由?

そんなの簡単。

理由は、暇潰し。

だって、隕石が落ちてくるなんて異常な状態、楽しいったらありゃしないし。

そんな出来事、暇潰しにピッタリだ。

まぁ、一時的なものだけど。

第一隕石なんて、落ちてくるわけないんだけど。

と、私がそんなことを考えていると。

「ねぇあんた。暇なんでしょ?」

私の隣でソファーに座っていた姉、綾瀬彩菜が話し掛けてくる。

姉は現役大学生で、私よりも遥かに頭が良い(らしい)。

と、私は姉の問いかけに、素直に「うん、暇だけど」と言おうとしたが言葉を飲み込む。

言い掛けた私は、ふと考える。

姉が私にこんなことを聞いてきた、理由を。

姉がこんなことを私に聞いてくるときは、大抵私に何かをさせる気で聞いてくる。

ということは、今も私に何かをさせようとしている、ということだ。

試しに私は、姉の横顔を覗いてみる。

相変わらずの強い香水の臭いに、チャラい感じの茶髪。

毛先の方にパーマを掛けて巻いている髪に隠れていた顔を、そーっと覗く。

すると、口角が微妙に上がっているではないか。

ほんと微妙に。

ほんと、嫌らしい感じに。

何か、企んでいるみたいに。

私は、平然とした顔で首を横に振り、続けて

「私、今は超が付くほど暇だけど、この後初と遊ぶ予定だから」

と言った。

まぁ、当然、口からデマカセの全くの嘘なのだが。

姉は信じきったようだ。

ちなみに初というのは、クラスメイトで隣人の美空初のことだ。

まぁ、後で紹介するとして。

私は、顔に表情が出やすいと、よく言われる。

でも今は、必死に唇を噛み締めて姉の方を見つめている。

理由?

そんなの簡単だ。

私は─────姉の面倒ごとには、付き合いたくないから、だ。

それから暫く、私と姉は睨み合いを続けた。

そして。

五分くらい経過した頃だろうか。

兎に角、数分が経過した時。

「あー、もう、あんた眼圧凄い。負け負け、私の負けですー」

眼圧凄いとか、あんたには言われたくない言葉だけどね。

いっつも私のこと睨みあげてるくせに。

第一、何時から勝負になってたのか。

ていうか、何の勝負なの。

そんな、目的も分からない勝負に勝ったって全然嬉しくないんですけど。

と、言いたいことは山々だったのだが。

私は少々疲れていたこともあって。

「で、私に何させようとしてたの」

と、極めて簡潔に言った。

「それって、あんたが知っても意味無いでしょ?ね、そうでしょ?」

いや、うん、そうだけどさ。

………くそっ、言い返せない。

私は何も言い返せず、ただただ黙り混んでいた。

「じゃーそういうことで。私は出掛けるから、あんたは初と遊んできなさいな。あ、門限は守りなさいね」

そして。

じゃあね、と言い残して、姉はリビングから出て行った。

何なの、あの姉は。

自分の言いたいことだけ一方的に言って。

人の質問には答えないで。

出て行っちゃう、なんて。

はぁ、相変わらず────。

────相変わらず、自分勝手な姉だ。

大体、なんであんなのが姉なのか。

自分勝手で妹を奴隷パシリ扱いするような、横暴な性格だし。

もっと、優しくて謙虚で、妹のことを可愛がってくれるような姉が欲しかったなぁー!

………。

欲しかったなぁー‼

────なんて。

そんなこと、今さらな嘆いても、仕方がないことなのだ。

妹が欲しい、なら兎も角、姉が欲しい、なんて。

養子を取らない限り無理なことだし。

まぁ、養子を取って姉を造るくらいなら、今のあの憎たらしい姉で結構なんですけどね。

と、私がそんなことを考えていると。

「アヤちゃん、アヤちゃん、大変なのだぁー!」

騒がしい声と共にリビングに飛び込んできたのは一人の少女。

白髪ロングで慧眼の、小柄な容姿の美少女だ。

「はぁ………。何なの、初、何が大変なわけ?あんたのことだし、特に大事じゃないと思うけど」

私はその、白髪の美少女に向かって「はぁ」と溜め息を吐いた。

彼女の名前は美空初。

前述した、私のクラスメイトであり、隣家に住む一家の長女でもある少女だ。

初は、然程大きな反応をしない私につまらなさを覚えたのか。

頬を膨らませて、私の前に仁王立ちしたと思ったら

「アヤちゃん、私の言葉、信じてないの?」

と、大声で言った。

「いや別に、初が嘘をいってるとは思ってもないけど………」

でも、なぁ。

初の感性は、何と言うか────。

普通の人とは少し違う、のだ。

だから、何と言うか。

初が「大変」と言うことの殆どは、私からしたら─────周囲の人からしたら、「全く大変じゃない」出来事なのだ。

それに、今までにだっておんなじ様なことが何回もあったわけだし。 

だから私は、初の言葉に対して、あまり大きな反応をしていなかったのだ。

と、私がそんなことを考えていると。

「んー、アヤちゃん黙らないでよ………。──────んー、もぅ!兎に角着いてきて!大変なんだからぁー!」

そう言った初は、私の腕を掴んで、引きずるかのようにして家を出て行った。

初に引きずられながら、私は思った。

………はぁ、めんどくさいことになりそう………、と。

この時の私は、初の言う「大変なこと」が、本当に大変なことだなんて、全く考えていなかったんだ。

でも、そんな私でも、後々知ることになってしまうんだ。

この世界の「シクミ」というものを。

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