03 The Catle
「ん・・・ここは・・・?」
上方を覆う、高価そうな装飾が施された天蓋が目に入る。
「お目覚めになられましたか?王子様。」
横から聞こえてくる、まだ幼さを感じるようなソプラノの女の子の声。
全身を包み込む暖かく、柔らかい感触。
「ここはどこ?」
放課後まことと一緒にホットケーキを食べに行こうとしてて・・・
そして、駅のホームから私は・・・っ
「っ・・・」
いつの間にかかけられていた、ふかふかの掛け布団を跳ね除け、私は電流に打たれたように飛び起きた。
まるで、中世ヨーロッパの貴族の寝室のような豪華な部屋。その中央に設置された大きな天蓋付きのベッドに私は寝かされていたらしい。
「落ち着いてください王子様。ここは安全です。」
「え・・・?」
ベッドの横、そこには黒いワンピースにフリルつき白のエプロン、いわゆるメイド服を着た少女が控えていた。
真面目そうな眼差しにロングの髪。髪は肩の高さで一本にところでまとめられ、尻尾の部分が右肩にかけられている。
年齢は私より2~3歳くらい下だろうか。その顔立ちはまるで人形のように整っていた。
有り体にいうと、とってもかわいい。
「あなたは?」
「この「城」でメイドを任されております、コルデリアと申します。ご入用の際は、お気軽にメイドとお呼びつけください。王子様。」
年相応の声色の、ただし感情を感じさせない声。
それにつられてか、私もすこしは落ち着きを取り戻すことができた。
「最初のご質問・・・ですが、みなここのことは「城」と呼んでいます。固有の名称は特にございません。王子がいらした場所とは別の世界でございます故、具体的な場所・・・というのを説明するのは難しいかと。」
「ちょっと待って、それはどういうこと?それに王子っていうのはなんなの?」
私のかりそめの落ち着きは、目の前のメイドの女の子の台詞によって剥ぎ落とされた。
別の世界?それに王子っていったい・・・
「後ほど、皆が揃った場にて説明させていただきます。それまでご辛抱ください。」
まるで感情のない機械のように感情の感じられない表情と声で、目の前の少女は予め用意されていたのであろう台詞を淡々と並べていく。
その声は、混乱する頭が理解できた唯一のものだった。
ここは別の世界。詳しくはあとで説明してくれる。
「そろそろ夕食の時刻となります。お食事は他の皆の分と一緒に食堂の方に用意していますが、体調がすぐれないようでしたらこちらにお持ちいたしましょうか?」
「食堂には皆・・・も来るの?」
「左様でございます。」
「それなら食堂で食べたいな。」
「畏まりました。」
メイドさんはそう言うとベッドサイドから何かを取り上げた。
「新しいお召し物をこちらにご用意しております。食事の目にお召し替えいたしましょう。」
「うん。」
自分の服装はいつの間にか真っ白いネグリジェに変わっていた。
言われたとおり着替えようと、緩慢とした動作でベッドから抜け出す。
「失礼致します。」
音もなくメイドさんの手がネグリジェの襟元へ伸びてきてはっとする。
「自分で着替えるから大丈夫・・・です・・・」
昔貴族は従者の人に着替えさせてもらってたらしい。
まさかその立場に自分がなるとは思わなかった。
同性同士だけど・・・結構・・・恥ずかしい・・・
「失礼いたしました。」
メイドさんから着替えを受け取り、そそくさと着替えた。
「お似合いです。」
「ありがとう」
メイドさんの感情のこもってない褒め言葉。
そういう子なのか、本心とは違う言葉なのか・・・
「こちらへどうぞ」
気遣いなのか、部屋の中に設置されていた豪華な装飾が施された鏡の前へ誘導してくれる。
そこには・・・
「・・・」
そこには、古いヨーロッパの王子様のような格好をした私がいた。
「王子様・・・?」
「左様でございます。この「城」には定期的に外の世界から、王子様がいらすことになっております。」
「そうじゃなくて、何で私は王子様なの?」
「?」
私の質問に、メイドさんはちょこんと首を傾げた。
先ほどと殆ど変わっていないような顔の中に、純粋にわからないと書いてあるような気がした。
「何で私、女なのに「王子様」なの?」
「それはわかりかねます。ですが、外の世界から王子様がいらす、そういうことになっております。」
また別の質問をしようと口を開きかけたものの、それはメイドさんに遮られた。
「そろそろ食堂の方へ参りましょう。」
頭の中の疑問符がおさまらない私に踵を返し、メイドさんは豪奢な部屋のドアを開ける。
「どうかされましたか?」
こちらへ向き直ると、メイドさんは私に部屋を出るそう促す。
わたしは疑問をいったん押し込め、部屋を出た。
「こちらになります。」
現代日本人の感覚からすると、無駄に広く感じる廊下をメイドさんに誘導され進んでいく。
石造りの床に真っ赤なカーペット、壁に一定間隔で取り付けられている精緻なガラス細工が施された照明器具が煌々とそれを照らし出していた。
「お足元にお気をつけください。」
豪奢な作りの階段を下り、先程までと全く同じデザインの廊下を進んでいく。
メイドさんはひときわ大きな木製の扉の前で立ち止まった。
「こちらが食堂になります。」
扉が開く。そのなかには、5人の「姫」たちがいた。
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