幻想創造

星積 椿

双子の魔女と赤い騎士

序章

赤い悪夢

 ごうごう、ぱちぱち。

 唸るような音は少し遠く、爆ぜる音はすぐ近く。

 辺りには灰色の煙が立ち込め、避難訓練の通りに姿勢を低く保って前進していても、すぐに咳き込んで進めなくなってしまう。

 煙が目に刺さり、とめどなくあふれる涙の向こうで、ひときわ大きな轟音とともに、真っ赤に燃え盛る大きな梁が落ちてきたのが見えた。


 ――ああ、もう終わりだ。


 進行方向、唯一の出口が梁によって塞がれ、すでに来た道も炎に飲まれてしまっている。

 がくりと、全身から力が抜けていく。

 このまま自分は生きたまま焼かれるのだろうか。それとも煙で窒息するのが先だろうか。

 どちらにせよ、苦しんで苦しんで、苦痛の果てに死ぬのだと、ぼんやりと思った。


 ――……


 死にたくない。

 別に高尚な志や、守らねばならない約束などない。

 それはただ、純粋な生命としての本能。

 

 ――……


 強い怒りの意思でもって、彼は眼前の炎を睨む。

 無駄な足掻きだと、他人が見れば嘲笑うだろう。彼は死の運命から逃れられないと、誰もが思うだろう。

 だが、彼は手を伸ばす。燃え盛る炎へ。


 ごぁっ、と炎がその手に収束した。

 彼に向って降り注いでいた火の粉までもが、彼の掌に収束され――そして、残った黒焦げの梁をなぎ払う。


 それが、“赤の守護騎士ガルディアン・リュビ”ユート・ヒイラギの覚醒だった。

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