アンドロイドに夢はない

尾澤めばる

第一章

第一話

 つい先日アンドロイドになった。

 自暴自棄になったわけではない。生きていくためにはやむを得ないことだった。仕事場のヒトは皆アンドロイド化している。アンドロイドにならないと仕事についていけないのだ。実際、この世界の八割のヒトはアンドロイド化している、らしい。

 目が覚め、灰色な世界を目の当たりにする、アンドロイドになって迎える初めての朝は清々しいまでに淀んだものだった。天気は大雨、住んでいるマンションの近くで事故が起こる、そして旧い友人からの電話...。友人はすぐに家に行く、と押し付けるように約束させられてしまったが、断る理由が見つからなかったため了承した。友人が来るまでまだ少し時間に余裕があったのでせっかくだからアンドロイドになって感じ方が変わったかどうかなどについて考えることにしてみた。

 元来の自分は偽善的で、嫌な出来事は中に閉じ込め、引きずる男だったと思う。そして何よりステレオタイプだった。そんなものだからアンドロイドになっても特に変わった感じはしなかった。アンドロイドになったからといって大幅に人格が変わることはない、と聞いていたが、これほどまでなのかと。一般的にアンドロイドになった人間は口を揃えて「悪行をしなくなった。」という。実のところ悪行をしなくなったわけではなく、できなくなる、が正しいのだが元々悪行なんてできない人間には関係のないことだ。アンドロイドは悪行を出来ない、つまり今起きている事件の全ては人間のせいなのだ。が、どうにも政府はアンドロイド化を義務化しない。これには理由があるのだが、今考えることではないだろう。

 世間一般では十二歳から十五歳にかけての時期にアンドロイド化する。これは思春期、第二次成長期に合わせて行うからだ。捻くれた性格になる前に、ということだろう。しかしそれは敢えて避け、二十八という微妙な歳でアンドロイド化することになった。当時は反抗期だったといえばそうなのだが、それ以上に人間であることに誇りを持っていた。今はどうかといえば生きることの方が大事だと思っている。今の今までアンドロイドたちに遅れをとらないように寝る間も惜しんであくせく働いていたが、ある時パタリと働く意欲がなくなったのだ。ヒトより無理しても同じ給料、その上周りからは変な目で見られる。気づけばもう人間である誇りも何も無くなっていた。そうして高校時代の自分にしょうがない、しょうがなかった、と言い訳に似た説得をしていると胃にくるような高い音のインターホンが鳴った。

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