死にかけ召喚者の冒険譚

@omotenashi03

第1話

 ああ……もっと早く起きればよかった。そんな後悔が俺の中に残る。

 俺こと坂里刻風さかりきざしは、朝九時に起きて、八時に始まる学校へ急ぎで向かっていた。


 そしたらホラ、飛び出したんだよ。俺と車が一緒に。見た感じスーパーカーじゃないか。こんないい車に轢かれるならしょうがないって気持ちに……ならねえよ。

 

 多分こんな田舎だからスピード出してもいいと思ったんだろうな。で俺はこんな田舎だからどれだけ急いでも車なんか来ないと思ってたんだろうな、不覚!


 近づいてくる車を横目で見ながらそんなことを思う。もちろん走りながらだ。でも、もう間に合いそうじゃないない。轢かれるわ、相手ほぼ全速力だし。


 高校二年生の夏休み明け一週間で休み明け初の登校。休みボケ長すぎだろ……

 ただ、そんなことより、まず目の前のことだ。まだ死にたくない。別にこの人生が充実していたわけでは毛頭ないが、生きてればなんだって目指せるし、そのために足掻くつもりもあったのに……。


 そうやってぼんやりポジティプ思考で考えていたのが駄目だったのか。


 そして、その時は着々とやってこようとしていた。


 最後の抵抗として、車の方へ体を向ける。

 車主はどんな顔してるかだけ確認しておきたかった。


 ――携帯見てんじゃねえよ!


 まずこっち見てなかった、気づいてなかった。

 こんな奴に轢かれるのかよと思うと同時に、その時はやってくる。

 

 交差点で、俺と車が交差する。


 瞬間、俺は声にならない痛みと共にグルグルと吹っ飛ばされる。


 見えている世界もグルグル回り、何が何だかわからなくなる。


 そして、吹っ飛ばされた後、うつぶせになった状態で、ぼんやりとした視界のまま、なんとか前を見る。


 ――どこだよここ。

 

 そこには、今までに見たことがない世界が広がっていた。

 

 整然と並ぶ建物は、全て石材でできており、俺がうつぶせになっているのは石畳の上だ。

 なんとか顔を起こし見た風景は、中世ヨーロッパの街並み、それだった。

 石造り、煉瓦造りの建物、長い布着てる人。

 もろもろ合わせてここは中世ヨーロッパと理解するには十分だった。


 なんだここ。天国?


 そんなことを一瞬思ったが、そんな俺の不安は一瞬で消えた。不安じゃないな、願い。

 俺は体中、ズキズキと痛かった、動かそうと思えないほどに。


 痛い痛い痛い。痛ってええええええ!


 どうやら、車に轢かれたことによって受けた傷は相変わらずのようだ。

 俺の悲鳴が響き渡る。

 周囲の人々はいきなり現れてさらに悲鳴をあげるこの様な俺を見て困惑しているようだった。


 恥ずかしいな、ずっとうつ伏せなのも。でも立てないし、それよりも、


 ――このままじゃ絶対死ぬ。


 それが分かるほどに、俺の体はボロボロだった。限界のサインを出していた。

 どっか知らない世界に飛ばされていきなり死ぬのか。どうせなら我が世界で死にたかった。

 

 そうして俺が死を悟っていたとき、すぐ傍にあった路地裏からローブを被った少女が飛び出してくるのが見えた。

 うつぶせのためはっきりとした姿は全然見えなかったが。


「大丈夫!? ちょっと待って、いま再生魔法かけるから!」

 

 と、小声で言い、駆け足で俺に近づき、屈んだ姿勢で俺の背中に手を当てる。

 

 すると、背中がとても温かくなり、続いていた痛みが引いていく。

 回復魔法というやつだろうか。ファンタジーらしいな。

 そしてとても落ち着く、これ以上ないほど。


====================


 快楽をしばらく体験した後、今度は眠気が来た。最高にいい夢が見れそうな眠気が。

 だが、それとは反対に、その少女はとても疲労しているようだった。さっきから俺の横で息苦しそうにしている。

 残念なことに、相変わらず顔は見えないけど!


 その時、今度は民衆を押しのけて前からthe・兵士な人物が二人現れる。


「姫様。ここにいましたか。さあ、我々と来てもらいます」


 なにやら兵士達は彼女を連れていこうとしているようだ。

 彼女はその場でキョロキョロしながらたじろぐ。

 

 後ろからも群衆の乱れた足音がする。

 どうやら前後から来ているようだ。


 案の定、挟まれて逃げ場のない彼女は、そのまま捕まってしまう。掴まれた腕を引きはがそうとしているが、疲れのためか力がこもっていない。


「おとなしくしてください」

 

 押さえつけられる彼女は、疲れ果てたのか抵抗虚しく自ら気絶してしまう。

 姫様と呼んでいた割には、扱いがぞんざいすぎないか。《《》》


「おい、こいつはどうする。姫様と一緒にいたようだが」

 

「連れていけ。協力者の可能性もある」


 小隊を率いていた隊長のような兵士二人が話した結果、俺の方も連れていかれるようだった。

 俺の方は、抵抗しようにも、ありえないほどの眠気が抵抗力に勝ってしまっていた。なされるままに担ぎ上げられる。


 てか、いきなり知らない世界に来て、いろんなことありすぎだろ。もうすでにいっぱいいっぱいだわ。

 

 でも、あの子、俺を助けたせいで捕まったっぽいんだよなあ。なのに、お礼の一つも言えてねえじゃねえか。

 追われる身のくせして、路地裏から大通りに出たせいで見つかってしまったようだ。

 

 十割俺のせいだな。


 起きたら……お礼……しないと……な。


 そんな心残りを残したまま、巨体な兵士に担ぎ上げられていた俺の意識も途絶えた。

 


 



 


 

 

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