第2話 こんなこともあるのね

 コネクトする瞬間ーー


 真っ暗な空間で栞に込められたヒーローの魂に触れ合う。


『ご機嫌いかが?』


 ふわりと笑うよく知る彼女は、僕を知らないカノジョ。


『……うん。大丈夫だよ。よろしくねシンデレラ』


 そう言って目を開くと、現実世界で彼女の体になっている。姿形、声や匂いまでも。

 彼女はいつでも胸の奥に素敵な王子様を抱いている。結末が分かっていても透き通るガラスの靴に足を通す瞬間の高揚を覚えずにはいられない。


 そう、それすらも痛いほどに伝わってくる。


「…いけぇ!」


 後悔にも似た複雑な感情を呼び起こすから避けてきたのに。

 エスクは内心自分に苦笑いを向けながらシンデレラとして杖を高らかに挙げた。

 杖の先から光が溢れ、味方であるそれぞれのヒーローを暖かい風が包む。癒しの風である。


「よし!ラストスパートだぜ!」


 タオのその言葉でレイナ、シェインも先程までの疲れを吹き飛ばしてヴィランの塊に突入する。そして、すべてのヴィランが黒いもやへと消えていく。

 やっとのことで戦闘は終わったのだった。



「間一髪ね」

「ホントですよ。姉御がうっかりポカするから死ぬかと思いました」


 アリスから本来の姿に戻りながらレイナは、同じくチシャ猫から姿を戻し背伸びをするシェインとエクスの方に歩いてきた。えーやだーとレイナは決まり文句をいいながら、「だって早く回復しなきゃって思ったら上なんて見てないわよ」と言い訳しながらシェインを睨む。


「ははは…でも間に合ってよかった…っていうか、でもなんで眠りねずみじゃなかったの?」


 今回の戦闘はたまたまアリス縛りのようなヒーローズだったので、レイナの持っている残りの栞もそうだとばかり思っていた。


「あら確かにそうね。ファムに渡しちゃったのかし……」

「やっほー!呼んだー?こっちも終わったよー」


 噂をすればなんとやら。二手に分かれていたファムたちが合流した。少しボロボロになりかけているがみんな無事に切り抜けたようだ。


「あれ?君、珍しいカッコウしているね」


 赤ずきんのまま、しかし目にはいたずらな光を宿したファムがエクスを斜めに見た。


「あ、いや…戻らなきゃ!」


 まだファムが本来の姿でなくてよかった。もしも本来の姿で、シンデレラの隣にいたら、違うと分かっていても心が追いつけなくなりそうだった。


「(いやでも、自分がシンデレラなら並べてみることもないか…何を考えてるんだろ僕は………)………え?」


 1人ノリツッコミしながら急いでコネクトを解く。

 再び暗闇が訪れて本来の姿に戻る。


 はずだったーーー


「エクス!?」


 揺らぐ意識の中、自分の名を呼ぶ誰かの声を最後にエクスは暗闇に戻された。

 そして、目の前にいたのは、


「あらまあ。こんなこともあるのね…」


 栞に戻るはずの、シンデレラだった。







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