異世界の扉

ザット

覚醒編

第1話 『異世界』

カッコン、カッコン、カッコン。ピン球がラケットと卓球台に当たる度に音は響いている。今日に限って熱いとも寒いとも感じない、心地よい室温をしている。


僕の名前は『カズマ』。まぁ、特に何もない学生。

勉強もできない、運動神経もない、図画工作も無理。簡単に言えば不器用貧乏。

・・・、最悪じゃん。


「よ~し、10分休憩~」


今周りに指示したのは『ユウト』。

この卓球部の部長だ、はぁ・・・、部長兼エースかぁ・・・、なんか羨ましいなぁ。

・・・って僕も副部長だっけな。

一部の部員は下の階にある冷水器に水を入れに行き、もう一部はトイレに行った。


僕は卓球台の上にポン球を被せるようにラケットを置き、隅にある長椅子に座り、

鞄からスポーツドリンクが入ったペットボトルを取り出し、気が済むまで飲んだ。


「っかはぁ~、飲んだ飲んだ」

「さすがに飲みすぎだろ」


呆れた顔で突っ込んで来たのは、ユウトだった。


「一気に飲まないと飲んだ感じがないだろ?」

「いや、次動けなくなるだろ・・・」


・・・、確かに、ユウトが言うことも一理ある。


「はぁ」とため息をついたところで、ユウトが僕に紙を渡してきた。

タイムスケジュール的な何かの様だ、そして、紙を受け取ったタイミングでユウトはそれを説明した。


「それ、次のメニュー」

「次って、なんで僕に渡すの?」

「昨日言ってただろ?今日は部長会議だって」

「あぁ、言ってたなぁ~」

「ホントに記憶力ないな、お前」

「るせぇ」


んじゃよろしくって感じなことを言って小走りで体育館を出て行った。


まだ、時間はあるからもう少し休もうかな。

・・・。

本当に平凡って感じがするなぁ。アニメやゲームの世界はあんなにもワクワクするのに、今いるこの体育館にはそのワクワクがまったくない。

もっとこう、超能力?的な?そんなエキサイティングな何かが起きれば、この部活も楽しいと思う。

最近友達が読んでる本で、異世界に行って冒険するお話しがあるみたいだけど、結局はフィクションでそんな世界はない。

もし、あるとするなら行ってみたい。


とか考えてたらもう時間だ。

え~っと声かけっと、あれ?誰も居ない。


「あれぇ?他の人は?」


今、更衣室から出てきたのは『ユウナ』。

多分更衣室で着替えていたみたいだ。


「カズマは部長会議だってさ」

「カリン達は?」

「一緒じゃなかったのか?」

「うん、更衣室は私だけだよ?」

「じゃあ、まだ冷水器辺りかな」

「そろそろ、時間じゃない?呼ばないの?」

「あ。ホントだ」


やばいやばいって笑いながら扉を開けようとすると、突然鈍い鐘の様な音がゴーンゴーンと体育館を響かせる。ユウナは慌てて耳を塞ぎ、僕は扉を開けようとする。

しかし、扉はびくともしなかった。


「ちょ、何この音!?」

「わっかんねぇ!扉も開かない!」


押しても、引いても、蹴ってもびくともしない。

もしかして、これって冷水器に言った連中の悪戯かもしれない。そう思って扉をたたき叫んだ。


「おい!何してんだ?!練習再開するぞ!」


まったく反応がない。クスクスした笑い声も聞こえない。


「くっそ、どうなってんだ・・・」

「ね、ねぇ。あれ何?」


ユウナがさした方向を見ると、倉庫の扉が開いてあって、その奥に黒い渦の様なものが見えた。


キーーーーーーーーーーン・・・。頭の中で謎の高音が叫びだす。


「う、あぁ!頭が・・・」

「ちょ、どうしたの?!」


頭の痛みと共に左手が光りだす。その光は水色だった。


「うわぁあ?!」

「何々?!どうなってんのよ!?」


訳がわからないまま、光は消え、頭痛は治まった。

しかし左手には、謎の模様が刻まれていた。


「なんだ・・・これ?」

「剣?みたいだね?」


「ひぃ!?」


ユウナが口を抑えて驚いた。どうした?と言う感じで振り向く。

すると、さっき見つけた倉庫の渦からヌルリと人型の様な何かが滑り込んできた。

その人型は立ち上がり、笑いながらこっちを見てくる。それも一体ではなく三体で。


「なんだよ、あの化け物・・・」

「ねぇ・・・こっちに来るよ!」


「ギィ・・・ギギ・・・」


夢を見ているのか?きっと長椅子の上で居眠りしているんだ。僕はそう思った。

けど、これは現実だった。



もし、アニメやゲームの世界があるなら、僕は主人公の様に戦えるのかな。

異世界があるなら、僕たちはどんな冒険をするのかな。

そんな馬鹿みたいな想像が現実とリンクし、カズマを困惑させる。

そう、もうこの体育館・・・、いや、この世界は現実であって現実ではない。

僕が読んで、観て、遊んでいた空想の異世界、それを実体験しているのだ。

しかも、残機やセーブなんてない、死んだらそこでゲームオーバー。

しかし、異世界があるならまだ現実世界は存在する。ならその世界を探せばよい。

探して入ればよい。


・・・、帰ろう。本当の世界へ。


第1話 『異世界』 (完)

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異世界の扉 ザット @takamaron

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