Epilogue:もしも僕がこの願いの結び言葉を変えていたのなら

◇Epilogue


『あの時、僕が短冊に書いた願いごと。


“明るい未来がありますように”


 もしも僕がこの願いの結び言葉を変えていたのなら、


 神様は明るい未来をくれたのだろうか。


 願うのではない。絶対に、掴まなければならなかったのに――。


 戻りたくても、戻れないのだ。


 やり直したくても、やり直せないのだ。


 そもそも僕達には、そんなチャンスなんて、初めから存在していなかったんだ』








 ――二〇××年・未来――




「は? 終電逃した!? ふざけてんの?」


 深夜の海のほとりを歩いている女性は、片耳に当てているスマートフォンに向け、いつもより低い声で怒りを放った。


「てかさ、あたし、朝の件まだ許してないんだけど! まじうざいからもう帰ってくんな!」


 受話部からは相手の戸惑う声が漏れていたが、お構いなしに通話終了のボタンを殴りつけるように人差し指で押す。軽い溜息を漏らし、スタスタと目的の場所へと歩みを進める。


 ポケットに仕舞いかけたスマートフォンが震える。先程の相手からだと思い、舌打ちをし画面を見た女性は表情を穏やかにした。


「もしもーし! お疲れ!」


 受話部から聞こえてきたのは落ち着きのある女性の声。


「うん、うん、あ、受付? あたしなんかでいいの? ――もちろん。任せて」


 景色は海沿いから街へと流れていく。とある小綺麗なビルの前に辿り着くと、女性は地下に続く階段を覗き込み、店の電気がついていることを確認した。


「結婚するって聞いてから時間あっという間だよなー。ドレスさ、半端ないくらい似合うだろうから、すっげえ楽しみにしてるっ」


 相手に見えはしないが、思いっ切り口角を上げた笑顔を作り、女性は通話を終わらせた。


 階段を下りていく。木造りのお洒落な扉に掛けられている透明のプレートに記されているのは、赤・青・黄・緑・紫の入り混じった“Barバー Crystalクリスタル Quartzクォーツ”の文字。


「……何だかなー」


 水晶を模ったような特殊仕様のドアノブに手を掛けた途端、心に留めていた本音がポロリと口元から転げ出した。複雑すぎる思いに悩まし気な表情を浮かべながらも、女性は静かにBarの扉を開いた。



 Crystal:Episode two…


 ――The singing voice was flooding tears from the boy’s heart.――  END

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