完璧家の頓死

雨野 結

第1話


ひぐらしの声が橙に染まった空に哀しく鳴り響いていた。

あちらこちらで線香の匂いがした。

私は手に持っていた菊の花を供え、手を合わせた。

隣で私の幼馴染みも同じように手を合わせ、動かない冷たい墓石をじっと見つめていた。


私には双子の幼馴染みがいた。

小学生の頃から仲が良く、お互いの家に遊びに行っては多くの時間を一緒に過ごしてきた。

私は、彼等が大好きだった。

しかし、そんな幸せは長くは続かなかった。


一年前の夏。

夕陽が死んだ。

事故死だったらしいが、詳しくは分からなかった。

夕陽は、顔も性格も良く、勉強も運動も誰にも負けなかった。何もかも、完璧に出来てしまったのだ。

癖のない真っ黒な髪の毛は、彼の真面目さをより一層掻き立てるものだった。

突然の出来事で、私はその現実を受け止めることが出来なかった。

夕陽が死んだ原因が分からないからこそ、私は余計に不安だった。

もしかしたら、私のせいではないのか。

そう思うことが一つだけある。


死という現実を受け止めることが出来なかったのは、私だけではなかった。

夕陽の弟である朝陽もまた、兄の死を酷く悲しんでいた。

朝陽は、夕陽とは全く正反対だった。

顔は私が見間違えるほどそっくりだったが、兄とは違って髪の毛は金色だった。

勉強も運動も人より出来なかったものの、飛び抜けて明るい性格のおかげか、誰からも好かれていた。

そんな明るい性格も、兄の死をきっかけに少しだけ変わってしまった。

相変わらず、髪の色は明るかった。


墓参りを終えて、私と朝陽は並んで家路を急いだ。

お互いに黙りあっていたが、私はその沈黙に耐え切れず、口を開いた。


「ねぇ、久しぶりに将棋しない?」

「なんでまた急に」

「だって夕陽が死んでから、朝陽、1回も私と将棋しなくなったじゃない」

「まぁな」

「だからさ、お互いが前に進むために、ね」


勉強も運動も出来なかった朝陽には、一つだけ人よりも優れた事があった。

それが、将棋だった。


暫く黙っていた彼は、私の方を向いていつものように微笑んだ。


「いいよ」

「本当?」

「おう。帰ったら、俺の部屋に来て」

「分かった」


それだけ言って、私達はまた何も言わず歩いた。

ひぐらしの声だけが、静かに響いていた。

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