現代っ子はどうしてこんなにも迷えるのでしょうか?
Say.We
第1話 春のHajimari
日常はとことん冴えない。
別にこれと言って目立ちたい衝動がある訳ではないけれど生きていて面白味がないというか。
味がしないのだ。だから中学時分は生きている意味を確かめたくてなのか。過食気味で。
気づけば今の彼のぽっちゃり容姿が出来上がった。
(マジでこのまま俺の学生生活って過ぎていくんかな……)
唯一の救いは隣に居た幼馴染が同じように、どこか自分と似通っていてずっと変わらないものだろう。
そう思い込めていた事だった。
けれど現実はそうではない。
あっさりと、いとも簡単にセピア色だった景色は原色に塗り替えられる。
彼女もまたそんな冴えない日常を変えたかったのだ。
その扉を開いた瞬間、初めて彼はひとまずすべてを悟ったつもりになり希望と共に、
絶望を知った。
(え…… ん???)
「迎えに来たよ。おはよう、海君。
学校、遅刻するよ」
「え…… と。どちら、様で?」
彼こと山川 海彦は醒めない頭をフル活動し今まで出会って来た女子の顔をぐるぐる当てはめてみようとするが、目前の女子が一向に出て来ない。これは夢か。はたまたギャルゲーのし過ぎかと頬をつねって見るが痛覚が消えない。
「ひどいよお。これ、ならわかる?」
「へ……」
薄暗闇の中その女子が眼鏡を掛けて微笑むと、ようやく知っている顔と一致した。それが希望の終わりで絶望の始まりだった。
「もしかして…… 絵里 か?」
「もうっ!もしかしなくても、だよ!!」
トニモカクニモ、背中をバシバシ叩かれようやく我に返った。
そう、どこかで海彦が知っている葵 絵里という幼なじみは内気で、読書家で、三つ編みで眼鏡を掛けていてどこか不器用。良くも悪くもどこか自分と同じで一般的に言うと腐っている感があると決めつけていた。
だが、どうだ。
海彦の眼前にいるその人物はストレートヘアで眼鏡なしでもバッチリ決まっていて、本来持っていたはずの影要素が全くない。
モブキャラ、サブキャラと言うよりも断じてヒロインである。
「絵里…… お前、熱でもあんのか?」
「失礼だな。高校生になったんだからちょっとはちゃんとしてるの!」
「え。何のために?」
「う~ん…… 自分のため?かな」
二人が軽く会話をしているのを遮るように海彦の姉と妹の声がする。よくよく時計に目をやるとあまりぼけっとしている時間がない事に気づく。
「とりあえず…… 急いで着替えるから下で待っててくれ」
「うん!」
どうにか平静を保とうと新調された制服に身を包んでいくが、どうも手元が覚束ない。どうして、何で、のオンパレードどころか。一体自分が何をやってしまったんだろうという要らぬ疑問すら巡る。
結局階下で簡単に食事を済ませ、待っててくれた絵里を改めてじいっと見て…… 海彦は率直に思った。
“負けたな”と。
「それじゃあ、行ってきま~す!」
「行ってきます」
片やローテンション、片やハイテンション。
まだ高校生生活が始まってすらいないのにすでに勝ち組と負け組に選別されたこのどうしようもない世界は残酷すぎだ。幾ら学校の校門近くで桜が咲き誇っていようと学園モノのフラグのごとく、美人のクラスメイトがいようと無に等しい。
むしろその現実の残酷さが痛々しい。
「絵里も結局は…… いや、何でもない。
お前は元々パーツはいいからな。俺はいいと思うよ」
「んー、あんがと。いい意味として取っておくね」
幾ら心にもない事を言ったとしても、心にある事を強引に投げつけるよりは人を傷つけないから余程いい。もちろんそれを毛嫌いする人もいるが絵里は流石にそういう人間でない事はわかっている。
だからこそ一歩踏みだそうとしている彼女を応援したいが、心配もしている。
(悩むの、やめよ。結局なるようにしかならねえしな)
根本に首を突っ込めば誰かが傷つく。そして自分も傷つく。
その結末として描けていたはずの絆や友情みたいなものが、ボロボロとこの両手から何事もなかったかのように消え去ってしまいそうな事が怖いし、淋しい。
そうでまでして手にしたものが本物と呼べるかどうか。
逃げたと罵られようが、無限に近い苦しみからしたらマシだ。
「よう。相棒!シケた面して、何か良いことでもあったか?」
「お前。その変な言い回しやめろよな、だーはら」
「へへっ……」
別に勝彦の友人は絵里だけではない。この少し勝ち気な一見爽やかに見える少年。原田 靖希も数少ない友人の一人で、中学、高校と勝彦とは腐れ縁状態にある。
ま、靖希からすると行く先に偶然、勝彦がいるだけらしいのだが……
「あれ?お前、こんな美人の知り合いいたっ……」
「ヤス君。わたしだよ!」
「え…… え…… ま、まじ?」
「ま、普通反応はそうだよな」
絵里の変貌ぶりに知ってる者からすれば驚異でしかない。
が、靖希からすると別にこの行動は変わらないらしい。
「よし!じゃあ、えりりん。俺と付き合って下さい」
「え…… やだよ」
兎に角、かわいいと感じた子には声を掛けまくるのが靖希のデフォルト習性であり二人は心得ている。そんでもってその思いが本気の中の本気でない事もわかっている。
「おい。相棒…… これで何連敗めだ?」
「中学二年から五百五十二連敗だな」
「多くないか?」
「手帳につけてるから間違いないよ。
初回の里中さんから数えて、絵里だけで百十二回目……」
「くそう…… えりりん。お前、振り過ぎだろ」
「だって熱い思いがヤス君にはないから!ふぁいとだよ!」
「余計キズつくわ!この天然娘め!」
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