俺の部屋が世界の料理な女の子達のエキゾチックな香りで包まれたんだけど

明石竜 

プロローグ

普段見慣れない世界の料理やグッズ販売の催しを見ると、なんだか楽しい気分になって来ないか?


「タンドリーチキンに辛子レンコンに、ケジャンにトムヤムクンかぁ。和彦(かずひこ)くん、辛いの選び過ぎ」

「フェア限定の珍しさもあるしなぁ。俺、海外の料理では四川料理と韓国料理とタイ料理と、インド料理が特に好きだな。桜子ちゃんはサークー・ガティとブコパイと宇治抹茶の生八つ橋ときんつばと、ハウピアとオンデオンデとジェリービーンズと、ロコモコと、ハロハロも選んだんだね。けっこういっぱいだね」 

「選び切れなくって♪ ベトナム料理のチェーも食べたいところだけど、さすがに食べ切れないかな? 私は京都の和菓子とアメリカのお菓子と、東南アジアやハワイのスイーツが特に好き♪」

 六月第一水曜日。北摂のとある府立進学校、豊中塚高校のお昼休み。

日本も含めた世界の料理フェア開催中の学食にて、一年三組の利川和彦は同じクラスの幼馴染、光久桜子と仲睦まじく会話を弾ませていた。丸顔ぱっちり垂れ目、濡れ羽色髪ナチュラルストレートヘア。背丈は一五五センチくらいで、おっとりのんびりとした雰囲気の子なのだ。

お互い会計は別々に済ませ、座席に向かい合わせに座ると、

「和彦くん、これ、似合うかな?」

桜子はメニューのおまけについて来た、赤いハイビスカスの髪飾りをつけて照れくさそうに問いかけてくる。

「うん、似合ってると思う」

 和彦は一瞥すると、ちょっぴり緊張気味に答えた。

「ありがとう♪ この髪飾りハワイアン雑貨っぽくてすごく気に入ったよ。そうだ! 和彦くん、このフェアになぞらえて、今日の放課後いっしょにここ寄ろう!」

桜子は楽しそうにスマホでそのお店のホームページを開き、和彦にかざしてくる。

「ゴールデンウィークに家族と友達とで二回行ったって言ってた世界中のスイーツが食べれる店か。雰囲気的に女の子向けっぽいから、さすがにちょっとなぁ。俺はやめとくよ。絶対場違いだろうし」

和彦は苦笑いを浮かべ、乗り気でなかったものの、

「そんなことないよ。男性客も多かったよ。スイーツの種類はこのフェアよりもずっと豊富だよ。和彦くんが気に入るメニューもいっぱいあると思うよ。開店から一ヶ月以上経って、そろそろ待ち時間0で入れる時間帯も出てくる頃だと思うし、和彦くんにも楽しんでもらいたいから、いっしょに行こっ♪」

「……分かった。でも混んでたら入らないよ」

 桜子ににこやかな表情でお願いされると断り切れなかった。

 

ってなわけで放課後、和彦は桜子に付き合わされ、学校から徒歩圏内にある世界中のスイーツが取り揃えられた喫茶店、『エスニック・スイーツ・カフェ』へ。

周囲の建物と比べて一際目立つ、おしゃれな世界地図柄の外観壁画。

 入口横にはくるくる回る巨大な地球儀が展示されていた。

「なかなかいい雰囲気だな」

「そうでしょう? 外国人観光客にも大人気らしいよ」

店内は広々としていて、座席数は三〇〇席以上はありそうだった。

賑わっていて、客入りも盛況のようだ。

「けっこう混んでるなぁ。やっぱ帰らない?」

「まあまあ、そう言わずにちょっとくらいなら待とう。これでもオープン直後よりはかなり空いてるよ」

 和彦と桜子、そんな会話を弾ませていると、

「ボンジュール。どちらの雰囲気の席になさいますか?」

「ヨーロッパでお願いします」

 フランス人っぽい女性店員さんに問いかけられ、桜子は即答する。

「それでは、お席へご案内させていただきます」

 二人はすぐに桜子の希望する雰囲気の席に案内してもらえた。

「メルシー♪」

 桜子がフランス語でお礼を言うと、

「ジュブゾンプリ♪」

 フランス人っぽい店員さんは流暢なフランス語で返し、嬉しそうに微笑んでくれた。

 外国人店員もけっこういるんだな。

 和彦は周囲をきょろきょろ眺めつつ、桜子の後ろ側を付いていく。

 この店のテーブル席や壁のインテリアは和風、中華風、アラビア風、欧風、アメリカ風、南極風、七〇席ほどあるオープンテラスはヤシの木などで彩られたトロピカル風の計七種類に彩られているのだ。店内BGMも雰囲気に則していた。

 桜子と和彦は二人用の丸テーブル席に向かい合わせに着くと、分厚いメニュー表を眺める。

「私、ミルフィーユとカンノーロと、飲み物はカプチーノにするよ。ランチは和とトロピカル系だったから、おやつはヨーロッパ系♪ 和彦くん、私が奢るから高いのでも遠慮せずに選んでいいよ」

「じゃあ、俺は、えっと、なんか名前だけ見てもどんな食べ物なのかが分からないのも多いな。とりあえず、どんなのかが分かってるトッポッキとプーアル茶で」

「和彦くん、スイーツも辛いのを選んだね」

 桜子はふふっと微笑む。

しばらくのち、二人の注文したメニューが運ばれてくると、

「和彦くん、はい、あーん」

 桜子はミルフィーユの一片をフォークで突き刺して、和彦の口元に近づけてくる。

「いや、いいよ」

 和彦は俯いて拒否。照れ隠しするようにプーアル茶を啜る。

「予想通りの反応だね」

 桜子は嬉しそうに微笑む。

 二人は傍から見ると、本当のカップルのようだった。

         ☆

ともあれ、二人は軽食を済ませると、併設のスーベニアショップへ。

 アジア、ヨーロッパ、アフリカ、オセアニア、北米、南米。六つのエリアに分かれ、店内を回ると世界一周旅行気分が味わえるようになっているらしい。

マトリョーシカ、トーテムポール、ヴェネツィアン・グラス、イースターエッグ、ペルシャ絨毯、青白磁といった世界各国の民芸品や民族衣装、お菓子その他食品、楽器、翻訳された日本のマンガなどなど珍しく面白い雑貨が山のように並べられていた。

京扇子や伊万里焼、さるぼぼなど日本の伝統工芸品も。

さらに、世界各国で生産されている地球儀や世界地図、運動会でお馴染みの万国旗などが売られている万国コーナーもあった。

「あっ! 新作が出てる♪ 買っちゃおう♪」

 桜子はアメリカのお菓子などを籠に詰め、

「世界地図柄のグッズもいっぱいあるね。折り畳み傘とかクッションとかシャツとか。俺はこれ買うよ。けっこう安いし、開店記念の限定柄みたいだから」

 和彦は万国エリアにあった税込七百円の地勢世界地図柄ハンカチを手に取り、桜子といっしょにレジへと向かっていくと、

「ねっ、姉ちゃん!」

 カウンター越しにいた予期せぬ人物に、和彦はあっと驚く。

「あら和彦。桜子ちゃんもいっしょなんやね。シンチャオ」

 和彦の三学年年上の姉、雪乃もちょっぴり驚いていた。

「こんにちは雪乃ちゃん、ここでバイト始めたんですね。アオザイがとってもよく似合ってますね」

 桜子は嬉しそうに微笑み、ご挨拶する。

雪乃は高校時代までは黒髪ポニテ、丸顔丸眼鏡、一文字眉ぱっちり垂れ目な見た目が地味系文学少女って感じだったけど大学入学を機に、髪型はほんのり茶色染めセミロングふんわりウェーブにプチイメージチェンジした。けれども小四の頃から続く重度の萌え系アニメオタクな性格は変わらずである。幼児期からの趣味の絵もかなり上手く、将来の夢は漫画家。他にイラストレーター、声優、ラノベ作家にもなりたいなぁっとも思い描いてるみたい。

「桜子ちゃん、これはバイトじゃなくて、般教の東アジア史の講義の体験実習なの。このお店の店長さんがその講義の教授の娘さんって関係で。せやからうちが店員として働くのは今日だけよ」

「あらら、そうでしたか」

「実習参加は希望者のみやったけど、最低でも良の評価保証するって言うてたから参加することにしてん♪ 時間帯はバラバラやけど、他に十人以上は参加しとるよ。和彦と桜子ちゃんが買ったグッズ、きれいにラッピングしてあげるね」

 青色の花刺繍入りアオザイを身に纏っていた雪乃は慣れた手つきでテキパキとラッピング作業を済ませ、二人に手渡す。桜子には星条旗柄、和彦には万国旗柄の包装紙を使っていた。

「ありがとう♪ ラッピングのデザインも異国情緒溢れてきれいですね」

「まさか姉ちゃんがいるとは思わなかったな」

 これにて店を出た和彦と桜子は、閑静な高級住宅街に佇むそれぞれの自宅へ向かって仲睦まじく歩き進んでいく。

桜子宅三軒隣な和彦は夕方六時半頃に帰宅すると、さっそく自室へ。

学習机の上はきれいに整理されていて、雪乃同様勉強しやすい環境になっている。さらに所有する漫画やラノベ、アニメグッズもよく似た系統なのだ。雪乃にはインパクトでかなり劣るものの。当初「女の子が見るアニメだから」と毛嫌いしていた和彦も小六の夏休みには嵌るようになってしまったわけである。 

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