幼女が殺しにやってくる
平カレル
社長室編(前編)
底使ちゃんは地の底からやってくる。
主にエレベーターを使ってやってくる。
絹のように真っ白なおかっぱに、夜の森の向こうのように黒い外套に身を包んでやってくる。
今夜の底使ちゃんが乗るエレベーターは、あるオフィスビルの最上階でピンと小気味の良い音を出して止まった。
扉が開くと、暗い廊下に長方形の形をしたエレベーターの光が映った。
底使ちゃんが廊下に出ると、エレベーターの扉が閉まり、光を失った暗い廊下に戻る。
廊下の窓の向こうにある空は、厚い灰色の雲に覆われていて星も見えず、ただ輪郭を失った月の明かりがぼんやりと雲に映っている。
底使ちゃんの靴音は覆われたカーペットに吸われ、ただ静かに底使ちゃんは進んでいく。
底使ちゃんが一つの扉の前で止まると、キーロックが解錠する音が短く鳴ったあと、「社長室」と書かれた扉が音もなく内側に開いた。
底使ちゃんはおじゃましますも言わずに部屋に入った。
大きな部屋だった。
手前にクッションのよく利いていそうな黒い革張りのソファとそれに囲まれた低いテーブルがあり、その奥には立派な書物机があった。書物机の向こうの壁一面は全面ガラス張りのようだが、今はブラインドが下ろされていた。
あまりにも仰々しいので息苦しい部屋だ。
書物机の上のランプだけが光り、部屋の天井や壁に観葉植物やソファの影を伸ばしている。
誰もいない、底使ちゃんはそう思い、少し首を傾げた。
「君は誰だい」
底使ちゃんが入ってきた扉の裏に隠れて見えなかった初老の男が、今入ってきた白髪のおかっぱの女の子を見下ろしながら声をかけた。
「わたしは底使ちゃん、死を見に来たの」
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