第15話 フレンチトースト
カレンダーを一枚めくって、わたしの部屋には三日遅い九月がやってきた。そう、今日は九月四日、日曜日なのだ。
昨日は、久しぶりに明恵と会った。半年か、それ以上会っていないかもしれない。
こうして、会える友人は貴重だと思う。
友だちはお金では買えないとよく言うが、その通りなのだ。
わたしは部屋の窓を開けて、ベランダの様子を確認する。やはり、砂や落ち葉が少したまっている。最近はなにかと忙しくて、ベランダの掃除をしていないせいだった。今日は、ベランダを簡単に掃いて、手すりをぞうきんで拭いて、布団を干した。そのあいだに、布団カバーや、ベッドカバー、枕カバーを一緒に洗濯する。
掃除はけっこうしているつもりだったが、ベランダまでは気がまわらなかった。これからは、部屋の内側だけではなく、ベランダも気づかうようにしようと思った。
洗濯機からかごへ洗濯物を移す。そして、布団をベッドに戻して、そのあいたスペースに洗濯物を干していく。その次は専用の洗剤を使って、指示通りに洗濯槽を洗っていく。見えないところに汚れはたまっていくもので、この洗剤を使ったあとは、洗濯機のフィルターを洗わなければならないほどだった。
他には何かすることはなかったかなと考えて、昨日は湯船を使ったから、今度は浴槽を洗うということに気づいた。
浴室のお湯を排水溝に流して、長い持ち手つきのスポンジに洗剤をつける。浴槽の中にも、洗剤をかける。それからあとは、力を入れてこする。十分くらいで、浴槽の掃除は終わった。毎日湯船につかるわけではないから、たまに浴槽の掃除をすると、なんだか疲れてしまう。
お昼は何にしようかと冷蔵庫を開けたら、食パンが目に入った。そうだ、フレンチトーストにしよう。たまごを溶いて、牛乳がないので、その代わりに豆乳を少し入れる。そこに食パンを両面浸してから、バターを溶かしたフライパンできつね色の焦げ目がつくまで両面を焼くのだ。それをお皿に乗せる。続けてもう一枚焼いて、それをさっき焼いた上にホットケーキのように重ねる。これで食パンは使い切った。本当は、お砂糖などで甘くして食べるのだが、わたしはお塩でいただいた。久しぶりのフレンチトーストは美味しい。子どものころの母親の家庭料理の味で、懐かしい味わいだった。
食器を洗ってから、ベランダに行って洗濯物が乾いたかどうか確認してみた。もう、大丈夫そうなので、取りこんでベッドを整える。布団カバーをつけるのには、けっこう手間がかかった。何箇所かリボン結びをしないといけないからだ。
いつもならば、ただ時間を過ごすために動いているだけだったが、最近は違う。時間を過ごすためと、生活のため。どちらかというと、後者にあたる。追い詰められて、そう答えるのではなく、ゆとりのある生活とでも言うのだろうか。徐々に、わたし自身によい変化が出てきたと思うのは、勘違いなのだろうか。きっと、どう考えても自由なはずだ。ならば、好転していると思ったほうがきっといいことがある気がする。
久しぶりに読書でもしようかしらと、読みかけの本に手をのばす。
ラストに向かって加速していく物語に、わたしは引き込まれていった。結局、最後まで読んでしまった。かなり薄い本だったが、内容は濃く、有名な賞を取るのも分かると思った。
時計に目を向けてみれば、夕方になっていた。
今夜もあるものですませて、買い物には行かなくてもいいかなと思った。
久しぶりにアスパラガス入りのサラダを作った。トースターで焼くだけで作ることができるハッシュドポテトを焼いてみることにした。初めて買ったので、味がわからない。ただ、ハッシュドポテト自体食べたことがないから、どんなものかも食べてみないと分からない。
トーストを焼く温度で、五分間焼いてみた。周囲が茶色くなっているということは、そろそろ食べごろなのだと思い取りだした。塩味だとテレビで放送されていたので、お塩をかけて、食べてみる。思っていたよりも美味しい。これなら、ハンバーグの付け合せのポテトよりも、美味しいかもしれない。アスパラガス入りのサラダも美味しいが、やはり、サラダはサラダなのだ。料理の中でメインにはなれない。
明日は、スーパーに行ってたらこか明太子を買おう。それを、パスタにしようと思った。
翔さんからのメールでは、翔さんの仕事が今週は少しいつもより忙しくなるらしい。土曜日は休めるのか分からないとメールにはかいてあったので、わたしはお忙しいと、疲れがたまるので、体調には気をつけてくださいと、返信しておいた。
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