愛殺(仮)
雪野目 晴
第1話 出会い
この世界に私の居場所はない。
だから私はこの世界が壊れようと関係ない。
暗殺の瞬間こそが、唯一生きていると実感できるのだ。
その大きな屋敷は不気味なほど静まりかえっている。
新月で闇はさらに濃く、白い屋敷は薄ぼんやりと浮かび上がっているよう。
屋敷で働く使用人たちは万全のセキュリティに安心しきって熟睡していた。
するりと、一室の窓より人影が忍び込んでゆく。
人影は呼吸すら感じさせず、気配を完全に殺し何の迷いもなく部屋のベッドへと近づいてゆく。
ベッドには20才前半の青年が眠っている。
白いシーツに短い黒髪が闇よりも濃く映える。
全身を闇色のコートで覆った人影が静かに見下ろす。
音もなく動いた手には、1本のナイフが握られている。
見下ろす目は冷ややかで、顔の白さも強調されている。
見た相手に恐怖を抱かせるには十分な目力。
ヒュッという音と共にナイフが心臓へと突き立てられる、はずだった。
「 ! 」
コートの人物は微かに目を見開く。
眠っていると思っていた相手が、自分の手首をつかみ、すんでのところでナイフを止めていた。
開かれた青年の目は髪と同じ闇色で、イタズラっ子のような光を灯している。
「残念だったな」
くるりと簡単に体勢が変わり、床へと倒される。
動けないように馬乗りで押さえつけられ、ナイフを取り上げられた。
倒れた勢いで被っていたフードが外れ、顔があらわになる。
雪のように白い髪に、青年と同じ瞳の色を持つ少女だった。
その少女には一切の表情がない。
二人の目が合った
まさか、少女の暗殺者が来るとは思っていなかった。
一瞬の隙をついて、少女は物凄い力で攻撃を仕掛けてきた。
本能的に回避すると、自由を取り戻した少女は脱兎のごとく侵入した窓を突き破って闇へと消えて行った。
「マジかよ」
青年の呟きが、静けさを取り戻した部屋に消えていった。
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