もし異世界で未来を観たなら

@Suetan

第一章 『原点の未来』

プロローグ 『夢の始まり』





「―――」


 ――色、色を見た。


 色は視覚から入ったわけではなかった。脳内に直接、送られてきた信号のようなものだ。


 音も同時に聴こえた。それも、聴覚からではない。耳から感じ取ったものではないからだ。


 否。色や音ですら、無かったのかも知れない。ただ一つの映像が、断続的に脳内に直接入ってくる。

 それは、紛れもない――夢だ。


「―――! ―――!!」


 夢が、何かを語りかけてくる。


 夢が、何かを訴えかけている。


 夢が、何かを求めてきている。


「――とう」


 『何か』が、やがて確かな音となり始めたのは突然だ。その声色はむず痒いような、暖かいオレンジ色を持っていた。


 声は穏やかに、そして甘やかに手を伸ばして、包み込もうとしてくる。


 それが堪らなく愛おしくて、こちらも手を伸ばそうとして――、


「――キ」


 何かが聞こえた気がして、トクン、と音が鳴った。


 苦しくなって、伸ばしていた手を咄嗟に引っ込めた。声は悲しそうにそれを眺め、諦めたように霧散していく。


 良かった。これで、苦しまずに済む。


 ――もっと聞いていたいなと、そうも思った。


「―――」


 直後、世界の崩壊が始まる。

 意識はその場にいることを否定され、仕方なく後ろを向いた。


 もうちょっと遠くに行ったら、またあの声に出会えるだろうか。

 そう、思いながら。



 _______________________




「―――ぉ」


 世界が晴れる。

 瞼の裏が光に焼かれていくのが分かり、急激なそれをゆっくりと慣らしながら、翳していた手を除けた。


 何度か瞬きを繰り返し、やがて繋がっていく輪郭。淡い世界に色が混じり、くっきりと分かれる。

 そして目の前に広がっていく世界に、空いた口が塞がらなかった。


「……どこだ、ここ?」


 確か俺は、ついさっき家を出ようとして、ドアノブに手を掛けたはずで。

 そもそも時間は深夜帯だった。今差しているのは朝の光。おかしい。矛盾が生じていた。


「……どこだ、ここお?」


 そしてもう一度、脳内を駆け巡るたった一言を、眠そうな顔で復唱。


 こうして、焔矢・樹――改めホノヤ・イツキは、異世界へと召喚された。

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