たいら

本当ならこの悲しみから逃れたい。しかし、それはできない。

なぜなら彼女はカレーにありったけのシュールストレミングをブチ込むことが私への愛だと信じ切っているからだ。


時間は刻々とすぎていく。私はどうすればいいんだ。すでに鍋からはこの世の物とは思えぬ冒涜的な異臭が立ち込めている。前世でニシンに何か迷惑かけたのか私は。


周囲が騒ぎはじめた。息子たちは「マジどうすんのこれ」みたいな眼差しを私に注いでいる。


私は決めた。このカレーのような何かが彼女の愛の現れだとしたら、それに全力で応えるのが伴侶としての務めであろう。私は意を決してそれを口に運んだ。

口の中いっぱいに腐臭が広がった。それはまさしく死の味だった。愛の味だった。

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たいら @taira87

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