セリフ魔法の正面対決!

ちびまるフォイ

きさま、まさかセリフ魔法を!?

「ククク……。よく来たな勇者よ。ここまで来たことは褒めてやる。

 だが、この魔王ザイアークに勝てるかな?」


「余裕ぶっているのも今のうちだ。

 俺にはお前を倒すためのとっておきの魔法があるんだ」


「ムダなことを。さぁ、かかってこい!」


「いや、その前に気にならないか?」

「え?」


「とっておきの魔法」


「え、う、うん」


「教えてやるから聞けよ」


「いや、勇者が普通に説明すればいいだろう」


「それじゃ、俺がひとりで話してるみたいで寂しいだろ!」


「めんどくせぇこいつ!!」


勇者の謎の申し出もあって、魔王決戦の前に雑談が行われた。


「いやね、俺もびっくりしたんだよ、この魔法を授かったのは。

 最初に訪れた村で"すごい魔法があるよ"って言われて……」


「がっつり話すのかよ!」


せっかちな魔王はすぐさまツッコミを入れて話を中断した。

軽い説明で終わるものかと思いきや、さながら落語のように語り始めていたことには意表を突かれた。


「まあ、聴けよ。それでな、すごい魔法があると言われて授かって……」


勇者はなおも面白トークをする芸人のように語り始める。

けれど、魔王の頭はすでに別のことを考えていた。


(こいつ……まさかセリフ魔法が使えるのか……!?)


セリフ魔法。

詠唱の呪文を日常の会話した魔法で、詠唱時間、つまりセリフが長い。

けれど、そのぶんの威力は絶大でいかな魔王でも耐えきることは難しい。


(もし、こいつがセリフ魔法を使えるとしたら厄介だ。ようしカマをかけてみよう)


魔王はなおも語り続ける勇者に声をかけた。


「おい、勇者よ。今日の天気は晴れだな?」


「え? ああそうだな。それで――」


再び話を戻して進める勇者に魔王は頭を悩ませた。


(こいつ、セリフ魔法つかいではないのか……? 私の考えすぎか?)


セリフ魔法は中断されるわけにいかないので、アドリブは挟めない。

魔王の問いかけにいとも簡単に話を脱線させた勇者は、

もしかすると本当にただ雑談をしているだけでセリフ魔法ではないのかも。


「ククク、いささか私も用心しすぎたようだな。

 セリフ魔法使いじゃないとわかれば、なにも恐れることはない」


「ところで、ちょっと聞いてほしい豆知識があるんだけど」


「ここに来て急に話題変更!?」


「実ははちみつは腐らないって知ってた?」


「どうでもいいよ!!」


魔王はハッとした。

思わずツッコミを入れてしまったが、今の勇者の言動は明らかに不自然。

急な話題変更をいれてきた。


これこそまさにセリフ魔法なのではないか!?


(攻撃系のセリフ魔法でなかったのが幸いか。

 しかし、きっと今の魔法で勇者の戦闘力は急上昇しているはず)


「それで、魔王。また別の話になるんだけど……」


「また!? ダメダメダメ! 聞きたくない! 全然聞きたくない!」


「ファミレスのメニュー表は……」


「ゴリ押ししてくるのかよ!! 黙れって!」


魔王はこれ以上セリフ魔法を使わせまいと、話を中断させた。

しばし沈黙が魔王の間に流れている。






「……なんかしゃべろや!! 気まずいだろ!!」


「えええええ」


魔王の逆ギレに勇者も驚いた。

と、同時にさっきから魔王の不自然な行動で気が付いた。


(この魔王……まさかツッコミ魔法が使えるのでは!?)


ツッコミ魔法。

ツッコミがそのまま魔法詠唱を兼ねているので人に気付かれない。

知らず知らずのうちに魔王は魔法を唱えていたのかも。


(攻撃系のツッコミ魔法じゃなかったのが幸いだった。

 これ以上、ツッコミ魔法を唱える隙をあたえてなるものか)


しゃべらなければツッコミを入れることもない。

勇者は黙って魔王と対峙した。


セリフ魔法も相手との会話の中でしか使えないので、

しゃべらなければセリフ魔法を使われることもない。


魔王は黙って勇者と対峙した。


 ・

 ・

 ・


それから数十年後、老いた魔王を近所の子供が棒でやっつけた。

後になって、魔王も勇者も魔法使えないことが分かった。



なぜなら、魔法を使うためには30代になっても

女性と手をつなぐことすらしない、という厳しい鉄の掟を守る必要があるからだ。



などと書いている村人の私は、「小説魔法」が使える。


小説を書くことで唱えられるこの魔法で、

のちに現れる次なる魔王を倒すために、こうして書き続けているのである。

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