俺以外俺を忘れ去っても

小々波 善影

第1話 リセット•スタート 8月6日 19:37

8月6日金曜夕方

柏屋 樫雅(かしわや かしまさ)の携帯に一件のメールがきた。彼女の林部 美佳(はやしべ みか)からだった。


「B公園で今から会えない?話したいことがある。」


樫雅は、

「OK」

とだけ打ち自転車に飛び乗った。家から自転車で15分くらいの公園に向かいながら樫雅は考えていた。

「なんの話だろ?」

樫雅と美佳は2ヶ月から付き合っている。

きっかけは、樫雅の告白。入学当初から美佳のことが気になっていた樫雅は思い切って告白したのであった。

美佳は当時、好きな人がおらず、暇つぶしにはなるかな、という本心でOKした。

樫雅が公園に着いた時には既に美佳が待っていた。

「ごめん!待った?」

「いや、メール打った時点で私ここに居たから気にしないで」

「よかった〜。で、話って?」

「単刀直入に言うね、別れよ」

「へ?」

「じゃ、そういうことで」

そう言うと美佳は帰ろうとした。

「え?ちょっちょっちょっ!」

「なに?」

「な、なんでいきなり?」

「じゃあ、逆に聞く。私たち付き合って約2ヶ月経つよね?」

「う、うん」

「何かした?」

「映画行った」

「他」

「••••」

言葉が詰まる樫雅に追い打ちをかけるように美佳が続ける。

「ほら何もないじゃん。そもそも樫雅••••、いや、柏屋くんと付き合ったのも柏屋くんが平均ちょい上ぐらいの顔だったから暇つぶしぐらいにはなるかなって思ったからOKしただけだし」

樫雅は何も言えず、涙目になっていた。

「じゃ、そういうことで。ま、前みたいに友達同士ってことで。じゃね〜」

美佳の後ろ姿が小さくなって行くのを見ながら樫雅は泣いた。

「お、俺がもっと積極的に動けてたらこんな事にはならなかった••••ってこと、か」

樫雅は自分を呪った。なんでもっと積極的に動かなかったんだと告白が成功しただけで調子に乗ってた自分に怒りが沸いて仕方がなかった。

「くそっ、くそっ••••••」

泣き疲れた樫雅は自転車にまたがり、ペダルに足を乗せた。

と、その時、公衆トイレから女と男の声が聞こえた。

「やめっ!て!••••」

「黙ってください!お願いです!」

「んっ、あぁっ!••••」

それを聞いた樫雅は口癖を放ち、ペダルを漕ぎはじめた。

「は?キレそう」

喉が渇いた樫雅はコンビニに寄って帰る事にした。


コンビニに着くと迷いなく炭酸飲料を手に取りレジへ向かった。

アニメキャラの服を着た、見るからにオタクと思われる太った男が大量の同じお菓子を買っているのを横目に見ながら、樫雅は炭酸飲料をそのオタクの横のレジへと持って行った。

「160円になります。ありがとうございました〜」

商品を持ち店を出ようとした瞬間、さっきのオタクが店員に急に叫び出した。

「あ?今、かなたんの服見てイタイとか思って笑ったよな?あ??なぁ!!!おい!」

「い、いえ、そ、そんな」

「店長だせ!」

樫雅はめんどくさい事には関わらない主義なので、オタクに絡まれた店員に合掌をして店を出た。

コンビニの前で炭酸飲料を飲み干し、家へとまっすぐ帰った。


その日、樫雅は布団の中で美佳への想いを断ち切れず何度も泣いた。



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