#17
宇宙空間で潜宙艦『セルタルス3』が、高速クルーザーの拿捕を完了しようとしていた同じ時―――
ゴアアアアッッッ!!!!…と雄叫びを上げた巨大怪獣ゴーデュラスが、太い腕を振り下ろして、プラットフォームの先端を叩いた。桁材が吹っ飛び、宙を舞う。もう一体のゴーデュラスは、さらにボヌリスマオウ農園を踏み荒らし、離着陸床の基部に並んだ設備を破壊してゆく。
「くそッ。撃て撃て! 撃退しろ!!」
プラットフォームのサイズは三百メートル四方。当社は先端部にいたメッツァだが、部下と共に空洞内部へ通じる大扉の前まで後退している。
「ロケットランチャーはどうした!?」
対人用ブラスターライフルでは、巨大怪獣に大して効果は無い。メッツァは装甲の厚い敵にも有効な、ロケットランチャーの到着を望んだ。ところがその希望は、あっけなく裏切られた。新たに内部施設から上がって来ていた傭兵が、困惑した顔で返答する。
「それが、侵入者に全弾、撃ち尽くしてしまいました」
侵入者とは無論、ノヴァルナとカーズマルスの事である。現場指揮官のスキュラ星人少佐が、暴れ回るノヴァルナとカーズマルス…主に、ノヴァルナに手を焼いた結果、手持ちのロケット弾を全て使ってしまっていたのだ。肝心の怪獣相手の迎撃戦に、主力となるべきロケットランチャーを使用させない辺りは、ノヴァルナという若者の持って生まれた、悪運というべきものであろう。
「何っ!! 撃ち尽くしただとッ!!!!」
不本意な報告をした傭兵に食って掛かるメッツァを尻目に、ゴーデュラスは再び両腕で、プラットフォームに強力な打撃を与える。
「うわぁあああッ!!!!」
天地がひっくり返るような激震に、メッツァ達は大半が転倒した。置かれている三隻の貨物宇宙船も一瞬、宙に跳ね上がる。ゴーデュラスが腕を叩き付け、抉り取られた箇所からは、高圧電流のスパークが起きた。しかも何かに引火したらしく、黒煙が登り始める。
さらにもう一体のゴーデュラスは、外部施設の破壊で火災を発生させており、ぞの炎はボヌリスマオウ農園にまで及んでいた。そこへまたプラットフォームに加えられる、巨大怪獣の一撃。プラットフォームの破孔が広がり、貨物宇宙船が再び跳ね上がる。
するとこの状況に傭兵の何人かが、怯懦に囚われたのか攻撃を放棄し、施設内に向かって逃走し始めた。そうなると元から士気は高くない連中だ。他の傭兵達も、雪崩のように逃げ出す。
「まて!…待て!! 誰も後退命令など、出してないぞ!! 逃げるな! 戻れ!!」
逃げ出し始めた傭兵達を、止めようとするメッツァ大佐。だがパニックを起こした人間が、その程度で止まるはずがない。逆に突き飛ばされて頭から転倒。大きな鷲鼻を強打して顔を両手で押さえ、転げ回った。
とその時、二体のゴーデュラスが暴れ回る背後の密林で、猛然と砂煙が吹き上がるのが見えた。へし折れた大量の幹や枝も一緒だ。その砂煙は離着陸床に向けて、一直線に突っ込んで来る。速度的にはゴーデュラスの比ではない。それはノヴァルナが“地底怪獣”と呼び、ヤスーク少年が“アングルアード”と名付けた、三本角の四足歩行巨大生物だった。
“アングルアード”の前方には、やはり偵察用プローブが飛んでいる。別動隊のテン=カイや、ガンザザが放った偵察用プローブは四基。そのうち二基をアングルアードに差し向けると、一基を故意に激突させて怒らせ、高速で誘導して来たのである。
しかしその突進力は、誘導しているテン=カイ達の想定以上だったらしい。樹木を薙ぎ倒しながら、自分達の方へ突っ込んで来るアングルアードの迫力に、ガンザザは四つ並んだ眼を見開いて警告する。
「こっ!…コイツはちょいと、ヤバ過ぎんじゃないか!!??」
「ああ。逃げた方が、いいかも知れない」
データパッドで偵察用プローブを操作しながら、テン=カイが落ち着いた口調で応じる。黒いホログラムスクリーンで隠した、顔の表情は分からない。
「お、落ち着いてる場合じゃないぞ、テン=カイさんよ!!!!」
叫ぶガンザザ。彼等が居るのは離着陸床の基部、アングルアードが突撃して来る場所だ。一緒にいる五人の陸戦隊員と共に、離着陸床の裏側へ向かって二人は駆け出した。
その直後、樹海から飛び出して来た巨大なアングルアードが、速度を落とさずに離着陸床の基部に激突する。
それまでのゴーデュラスの殴打とは、桁違いの激震が発生した。頭部の長く伸びた三本角が、離着陸床の壁面を突き破る。プラットフォームから逃げ出して、エレベーターの斜面を駆け下りていた傭兵達は、この衝撃で一斉に転がり落ちた。天井の一部が崩落し、内部でノヴァルナ達を追っていたスキュラ星人の少佐と、部下達を下敷きにする。
そのノヴァルナとカーズマルスは、動力炉制御室から出て来たノア達と合流し、アングルアードの激突寸前に、地上へ通じる吸排気口の中へ潜り込んで難を逃れていた。
グワッシャン!!ドガガガガガ!!!!…と、空洞内に頭をめり込ませたアングルアードは、右へ左へ首を振り、長い角の先端で内部施設を破壊する。その施設とは、バイオノイド:エルヴィスの生体組織を合成する、バイオ・マトリクサー施設だ。外壁を引き裂いたアングルアードの角は、エルヴィスの生体組織を合成していたシリンダーを、横殴りにまとめて叩き割った。
するとそのアングルアードの横腹を、大きい方のゴーデュラスが蹴りつける。どうやらこちらが前回、戦っていた二体らしい。頭を引き抜いたアングルアードは、ゴーデュラスに反撃の体当たりを喰らわせた。バランスを崩したゴーデュラスは、背中から離着陸床に激突する。巨体にグシャリと大きく圧壊される離着陸床。そのてっぺんにあるプラットフォームも、全体が斜めに傾いた。
さらにアングルアードが体の向きを変える際に振り回した、先端に棘の生える長い尻尾が、もう一体のゴーデュラスの脚に命中。棘に刺されたゴーデュラスも加わり、三つ巴の戦いが始まる。
「ウゴァアアアア!!!!」
そして怪獣達以外に叫び声を上げたのは、ドン・マグードだった。欲深な宇宙マフィアの首領は、巨大怪獣がプラットフォームを破壊しかけているこの状況でも、できるだけ多くの“改良ボヌリスマオウ”の種子を、貨物宇宙船に積み込もうとしていたのだ。
ところがゴーデュラスの離着陸床への激突によって、プラットフォームが傾いた際、崩れたコンテナが数名のピーグル星人をまるごと圧し潰し、ドン・マグードの下半身を下敷きにしてしまったのである。
「ラッサ!」
「メック・ハッシュ・ラッサ!」
手下達が駆け寄って来てコンテナを押し退け、ドン・マグードの両腕を掴んで引きずり出す。そこへオーク=オーガーもやって来た。オーガーが見ると、ドン・マグードの両脚は完全に潰れている。ギラリと光るオーガーの眼。
「ドン・マグード!」
「シ…シッシャ・マフ・オーガー…グ…グクット・サフ…」
オーガーが見下ろしている事に気付いたドン・マグードは、苦悶の呻きを漏らしながらオーガーに助けを求める。ほんの三百メートルほど先では、三体の怪獣が格闘を始めており、いつ離着陸床全体が巻き込まれて、プラットフォームごと崩落してもおかしくはない状況だ。激しい揺れに、全員が膝をつく。
「“おい。おまえとおまえ”」
オーガーはドン・マグードを助け出した二人の配下に呼びかけた。二人とも比較的体格のいいピーグル星人だ。
「“ドン・マグードを肩に担いで、宇宙船に運べ”」
▶#18につづく
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