#15

 

「どういう事だ!?」


 機体の右肩関節駆動部損壊の警報音が鳴るコクピットで、マーディンは思わず疑念を言葉にした。『レイフウAS』は超電磁ライフルを左腕で小脇に抱えたまま、さらにクァンタムクローの斬撃を仕掛けて来る。


 『シデン・カイXS』の右腕が動かせなくなっているマーディンは、咄嗟に左腕のポジトロンランスを宇宙空間に手放して、逆手に握ったクァンタムブレードを鞘から抜いて応戦した。間一髪、クローを受け止める『シデン・カイXS』のブレード。そこから二撃、三撃、四撃と続く斬撃を、全て受け切ったマーディンは、一瞬の隙を突いて逆に斬りかかる。だが『レイフウAS』は素早く身を引き、マーディンの反撃距離から脱した。間を置いて対峙する両機。


「新型の親衛隊仕様とはいえ、BSIはBSI…それが一対一で、我のこの『レイフウAS』と互角に戦うとは、マーディン殿は思うた以上に手練れであるな」


 賞賛の言葉を口にしながら、隙を窺うアーダッツ。対するマーディンも、「アーダッツ殿こそ噂に違わぬ見事なお手並み…」と応じつつ思考を巡らせる。今の『レイフウAS』が見せた、一連の動きについてだ。


 頭部の半壊で、兵装照準をはじめとするセンサー類のメインが、機能を低下させている今の状況で、その補填の可能性として考えられるのは、頭部ではなく胸部に装備されているサブセンサー類なのだが、精度的には超高速機動下の格闘戦には不向きなはずであった。それが自分との間合いを正確に測り、対処するのがギリギリの攻撃を仕掛けて来ているのである。何か別の要素が加わっているに違いない。


 しかしマーディンの思考はそこで中断された。正対する『レイフウAS』が先に動いたのだ。思考を巡らせる方に神経を偏らせていたところへ、相手の急接近を許してしまったのだ。


「くっ!」


 自らの油断を自覚し、反射的に機体の右脚で、前蹴りを喰らわせようとするマーディン。その脚は『レイフウAS』のクァンタムクローで、足首から切断された。マーディンは“これはマズい!”と瞬時に思う。単調な動きで間合いを逃れようとするのは、『レイフウAS』が左脇に抱える、超電磁ライフルの的になるだけであるからだ。ところが『レイフウAS』はライフルを撃たずに、左脇に抱えたまま、クァンタムクローの斬撃を浴びせるため、突撃して来たのだ。


「!!??」


 予想に反した敵機の動きに困惑しながらも、機体を翻して『レイフウAS』をやり過ごすマーディン。その表情には、今の『レイフウAS』の攻撃に、閃くものがあった。

 

“ライフルを撃たずに、斬りかかって来た? もしかしてこれは…”


 超電磁ライフルの本体にも超高速機動戦用の、精度の高い照準センサーが装備されている。アーダッツはこれを射撃用ではなく、頭部が半壊して精度が低下したメインセンサーの、補完に充てているのではないか?…とマーディンは考えた。そうでなければ、小脇に抱えてトリガーも引けないまま、斬りかかっては来ないはずであるからだ。


 マーディンの推測は正解だった。だがそれが正解を導き出したとしても、『レイフウAS』最大の武器であるクァンタムクローによる、高い精度を取り戻した斬撃や刺突を回避するのは、これまで以上に困難となっただけの話である。マーディンの『シデン・カイXS』は、右肩関節部を切り裂かれており、左腕しか動かない状態だ。それに超電磁ライフルは破壊してしまっていて、『レイフウAS』の真似をして、センサー精度を補完するのは不可能となっている。


「まだ青いな、マーディン殿!」


 そう言ってさらに、クァンタムクローによる素早い攻撃を繰り出して来る、アーダッツの『レイフウAS』。精度を取り戻した斬撃と刺突に、マーディンは防戦一方となった。だが左腕に握るQブレードだけでは、到底防ぎきれるものではない。『シデン・カイFC』の全身表層は、たちまち裂傷で覆われた。それでも機体内部まで達する致命傷を負わなかったのは、超電磁ライフルを左の小脇に抱えた『レイフウAS』にとって死角となる、左側へ左側へと位置を取る、マーディンの技量によるものだろう。


“く…一瞬でもアーダッツ殿の精神集中を、途切れさせる事が出来たなら、どうにか反撃の糸口を掴めるのだが”


 するとマーディンの想いは、思わぬ形で現実のものとなる。両機が激突する戦場の『レイフウAS』の背後で、立て続けに大きな閃光が輝いたのだ。それと同時に通信機から響いて来る、全周波数帯通信による「アッハハハハハ!!」という、マーディンには馴染みの高笑い。


 立て続けに起きた大きな閃光は、星間ガス雲の中から出現した総旗艦『ヒテン』以下、第1艦隊第1戦隊の七隻の戦艦と、十八隻の重巡航艦であった。第1戦隊らは、イースキー艦隊を星間ガス雲の中で奇襲したノヴァルナと、『ホロウシュ』を回収したのち、アーダッツの艦隊の後をつけて来ていたのだ。戦場に到着しだ第1戦隊らは星間ガス雲の中から出た直後、即座に射撃開始。アーダッツの艦隊と合流し、陣形を立て直しつつあったフィビオとナーガイ、キャンベルの艦隊に砲撃を始めたのである。





▶#16につづく

 

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