#18
ナルガヒルデの決死のイマーガラ家本陣突撃。それは直前に哨戒艦隊旗艦から入電した、大型小惑星デーン・ガーク付近で、奇妙な重力子の集中反応が検出されたという情報を得て、そこにイマーガラ軍総旗艦の『ギョウビャク』が、潜んでいると判断した事により、目標としては正解を得る結果となった。
だが問題は、そこへ到達するまでの時間である。
両軍の主戦場となっていたのはオ・ワーリ=シーモア星系の、第五惑星と第六惑星の公転軌道の中間辺り。だが奇妙なエネルギー反応があるというデーン・ガークの位置は、第七惑星と第八惑星の間で、主戦場からは二億キロ以上も離れており、光速の30パーセントあまりの最大戦速で突撃しても、到達まで三十分以上の時間が必要となるのだ。
そこでナルガヒルデがとった戦術が、十二個ある基幹艦隊のうち、九個でトンネル状の陣形を構築してイマーガラ艦隊からの攻撃に耐えながら前進させ、本陣近くに達したところで、その内側に置いた三個艦隊が突出、ギィゲルトのいる本陣を攻撃するというものであった。倍の戦力の敵に対して、トンネル陣形を組む部隊は大きな被害を受ける事になるが、正面切って殴り合いを演じ、なおかつそれを打破、本陣を目指すよりは勝ち目がある。
これに対しイマーガラ軍は、トンネル陣形と正対する正面部隊の戦力を増やして防御の厚みを増すのではなく、むしろウォーダ軍を突撃させながらその周囲に巻き付く形で、同航戦を行い始めた。正対面の戦力に厚みを増し、ウォーダ軍に死に物狂いになられると、自分達の損害が無駄に増すからだ。それならば意図的にウォーダ軍に突破させ、同航戦で削り取っていった方がいい。
そしてイマーガラ軍の思惑通り、みるみるうちにウォーダ軍艦隊に損害が増加し始めた。複数の敵艦から砲撃を受けていた戦艦が、損害に耐え切れず爆発四散し、後続していた軽巡航艦が巻き添えを食って、艦の前方部がグシャグシャに潰れる。艦尾に宇宙魚雷を破壊された重巡航艦が操舵不能に陥り、陣形から飛び出したところを、複数のBSIユニットにハチの巣にされる。駆逐艦の引き裂かれた舷側から宇宙空間へ吸い出された兵士は、激しく手足をバタつかせるものの、ほんの数秒後には動かなくなった。
そこに加わるギィゲルトの冷酷な言葉。
「照準よし。『D‐ストライカー』、発射する」
ナルガヒルデの乗る『ヒテン』が激しく揺れたのは、その時であった。これまでの戦いで何度か被弾した事はある『ヒテン』だったが、乗員の中で戦闘経験が豊富な者は、衝撃の種類が普段と違う事に気付く。
「右舷第8デッキ士官室付近で爆発! 主砲弾や誘導弾の命中ではありません!」
「被害状況は!?」と艦長。
「第4デッキから第12デッキ大破。損害の大半が居住区画のため、死者は出ていない模様」
オペレーターの報告に、艦橋の中の誰もが眉をひそめた。戦闘中で居住区画に兵がいなかったため、人的被害が無かったのは幸いだったが、事故で爆発が起きるような場所ではないからだ。となるとこれまで第1艦隊に被害が続出して来た、一連の爆発と同種のもの―――敵からの何らかの攻撃としか考えられない。
ナルガヒルデは直感的に、これがイマーガラ軍本陣と思われる、大型小惑星デーン・ガーク付近で検出されたエネルギー反応の正体だと考えた。重力子の集中は超空間転移の際に起きるものだが、その規模がこれほど小さいのであれば超空間転移以外で、それに類するものが行われたに違いない。そして第1艦隊に起き始めた、宇宙艦の謎の爆発。これらを関連付けると必然的に、イマーガラ軍は小規模な超空間転移によって超遠距離攻撃を行える、新兵器を開発したと推察するべきだ。
しかし時は止まってはくれない。
ナルガヒルデが思考を巡らせている間にも、ギィゲルトは『ディメンション・ストライカー』の次弾装填を終えている。しかも照準を行っている艦からは、先の射撃が総旗艦『ヒテン』に着弾したという報告が届いていた。“効力射ゾーン”で補足した敵艦に付けたマーカーの中から、ついに『ヒテン』のマーカーを突き止めたのだ。
「照準数値275584‐66735を自動追尾…よし。発射」
三隻の照準担当艦とのデータリンクにより、数値化された『ヒテン』を銃身が自動的に追尾するように設定したギィゲルトは、『サモンジSV』にトリガーを引かせる。銃身内で超空間転移した銃弾は、今度は『ヒテン』の左舷艦底部で実体化して、位相爆発を発生させた。真空の宇宙側では爆発音は聞こえないが、『ヒテン』の艦内では、無数の雷鳴が一度に重なったような大轟音が響く。
▶#19につづく
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