#06

 

 BSI部隊の機動戦で、まず輝きを放ったのはやはり、シェルビム=ウォーダ軍のダムル=イーオであった。この若者の専用BSHO『タイゲイDC』は、通常の超電磁ライフルより速射性を向上させ、弾倉も通常の八発から十二発の弾丸を収納するように大型化した、特製ライフルを装備している。


 六機の親衛隊仕様『シデンSC』を従えた『タイゲイDC』は、その特製超電磁ライフル二挺を両腕に片手持ちし、近寄る敵のBSIやASGULを、手当たり次第に撃破していた。速射性の高いライフルは敵機が回避運動をとっても、その予測未来位置へ着実に次弾を送り込み、戦果を挙げる。


「ふん。雑兵は、動きが単純でいかん」


 些か大言癖があるダムル=イーオだが、それに見合った技量を有しているのも確かであった。複数のBSIとASGULが取り囲もうとするが、いち早くそれを察知し、包囲の輪から抜け出して、直属の親衛隊仕様機六機と共に逆撃。包囲を試みた敵機を全て、あっという間に撃破する。

 そして自分がBSI部隊の総指揮官である事も、無論忘れる事は無い。やや戦場と距離を取って、親衛隊に対し「状況を見る。頼むぞ」と周囲の護衛を命じると、戦術状況ホログラムでBSI戦の状況を確認した。


 作戦としては難しくない。自軍の方が数で圧倒しているからだ。攻撃艇部隊の敵艦隊への攻撃を支援するため、敵のBSI部隊を引き付け、これを撃破したのちに艦隊攻撃へ加わる。艦の数ではこちらが不利であるが、敵艦の重力子ノズルを破壊して回れば、勝ち目は充分あった。


“叔父上をウォーダ家の中核へ押し上げる、絶好の機会だからな。しくじるわけにはいかんぞ”


 モルザン=ウォーダ家は没落し、アイノンザン=ウォーダ家が敵に寝返った今、この戦いで自分達ナガン・ムーラン=ウォーダ家が大功を挙げれば、ノヴァルナ様に認められ、上昇気流に乗る事が出来るだろう。そのためにも負けるわけにはいかない…ダムルはあらためてそう思い、気を昂らせた。するとコクピットに展開させた戦術状況ホログラムに、奇妙な箇所がある事に気付く。


「なんだ…これは」


 次々と消えていく味方機の反応…ダムルは訝しげな表情で呟く。まるでブラックホールに吸い込まれるように、味方の機体は一点へ向かっていた。


「これは、シェイヤ=サヒナン殿が出て来たのか?」


 さらに呟くダムル。こういったBSI戦の表示のなされ方は、超強力な機体が戦場に出現した際に見られる反応であり、ダムルはこれに見覚えがある。それは三年前のイノス星系の戦いで、戦場にノヴァルナの『センクウNX』が出撃して来た時だ。ノヴァルナを討ち取ろうとするカルツェの軍の機体が、次々と返り討ちに遭って、これと同じような表示を見せられたのだった。そして今回の戦いでこのような表示を起こす敵と言えば、まず思い浮かぶのがシェイヤ=サヒナンである。


“これはいい。これほど早く出て来られるとは!”


 ダムルの双眸に若者らしい輝きが宿る。敵のBSI部隊をすり潰し、司令官でパイロットでもあるシェイヤ=サヒナンを炙り出すのも、作戦のうちだからだ。そしてそのサヒナンを自分が討ち取る…理想の筋書きに他ならない。


「行くぞ!」


 ダムルは護衛の六機に告げると、その表示点へ向けて『タイゲイDC』を加速させた。イマーガラ軍のBSIがダムルの機体に気付いて二機、三機と立ち向かって来るが、ダムルの先制攻撃の銃弾を喰らって、たちまち爆散する。


 しかし距離が縮まり、センサーが詳細なデータを収集すると、どうやらその強力な敵の機体は、シェイヤ=サヒナンではないらしいと分かった。IFF(敵味方識別装置)が表示するその敵の識別信号には、金色の『丸に三つ彗星』の家紋が浮かんでいる。


「この家紋はホーンダート家…それに嫡流の金紋。誰だ?」


 眉をひそめたダムルは、不用意に接近するのを避けて機体を停止させ、正体不明のBSHOの動きを確かめた。血気盛んでも向こう見ずなわけではないダムルだ。そしてその敵の機体の動きは、ダムルの背筋に悪寒を走らせるものであった。




 その恐るべき動きを見せる機体―――『カヅノーVC』のコクピットでは、雲霞のように群がって来る敵機に、ティガカーツ=ホーンダートはどこか緩い口調で、独り言を言う。


「結構、忙しい…な」


 そんな口調と裏腹に『カヅノーVC』は、同時に間合いを詰めて来た二機の量産型『シデン』に対し、目にもとまらぬ速さで手にした大型ポジトロンランスを振り回し、被弾予測警報を出させる間もなくまとめて両断してしまった。

 そして急加速。別の敵機からの銃撃を躱したティガカーツは、機体を翻す間にポジトロンランスを脇に抱え、バックパックのハードポイントから超電磁ライフルを片手に取ると、正対した一瞬で敵機に反撃の銃弾を放つ。その一撃が敵機の胸板を貫くと、すでに『カヅノーVC』は、別の敵機に銃撃を浴びせていた。

 

 砕け散った敵機の部品や破片に囲まれながら、『カヅノーVC』はお構いなしに機体を翻し続ける。周囲にはこの只者ならざるBSHOを、さぞや名のある武将と思い、討ち取って功名を挙げようとするウォーダのBSIユニットや、ASGULが次々と群がって来ていた。それがまた次々と撃破され、部品と破片の小惑星帯を作り上げていく。


「左右だ。左右から挟み込め!」


 親衛隊仕様の『シデンSC』を指揮官機とした七機のBSIが、ティガカーツの『カヅノーVC』を仕留めようと左右に展開する。上下空間には撃破されたウォーダ軍の機体が散らばっており、迂闊には突っ込めないだろうという判断だ。

 右から指揮官機を含む四機、左から三機のBSIユニットが間隔をあけて、ティガカーツに迫る。統率が取れ、非常に動きがいい小集団である事から、実戦経験の豊富なパイロット達であろう。ティガカーツ機を真ん中に置いた、この囲い込みのフォーメーションが完成すれば、あとはどのようにでも料理できる…という自信が彼等にはあった。


 ところがここでも、コクピットで近接警戒センサーの反応を見る、ティガカーツの表情には動揺の色が皆無である。攻囲しようとする敵編隊の一点を目指し、眼光も鋭く、『カヅノーVC』のスロットルを全開にした。だたその口から漏れる独り言の調子には、緩さが取れない。


「だから…忙しいって、言ってるのに」


 不規則なジグザグを描く、稲妻のような機動を見せた『カヅノーVC』の一瞬後には、眼前に敵の指揮官機がいた。まるで瞬間移動でもしたかのようだ。敵の指揮官機に乗るベテランパイロットは、これまでに見た事も無い、ティガカーツ機の速度に唖然としている。相手が上位機種のBSHOであっても、これほど速い間合いの詰め方は初めてだった。


「く…!」


 ただウォーダ軍の指揮官も腕には覚えがある。瞬時に自分の『シデンSC』の武器セレクターを、近接用の“クァンタムブレード”に切り替え、抜刀と同時にカウンターの“抜き胴”を放とうとした。しかし次の瞬間、Qブレードを握った指揮官機の手は、『カヅノーVC』が手にする大型ポジトロンランス、『ドラゴンスレイヤー』の柄でガチリ!…と抑え込まれた。


「ごめん…邪魔しないでくれる?」


 ティガカーツはぶっきらぼうに言うと、機体のもう一方の手で取り出した超電磁ライフルを、敵指揮官機のコクピット部に押し当ててトリガーを引く。それがティガカーツ=ホーンダートの初陣における24機目の戦果であった。





▶#07につづく

 

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