#05
今回の件でノヴァルナからの信頼をさらに得たナルガヒルデ=ニーワスは、主君の言葉通り、すでに対処命令を発している。
「第2戦隊、第10戦隊、第6宙雷戦隊は全艦、右砲雷撃戦用意。ノヴァルナ様の第1戦隊と、第4、第8の航宙戦隊及び第1宙雷戦隊は、カルツェ様の艦隊に向けそのまま前進。サンザー様、BSI部隊を率いて、星系防衛艦隊の迎撃をお願いします」
ナルガヒルデの女教師的な淡々とした声を聞く度に、ノヴァルナ艦隊は冷静さを取り戻すようになって来ていた。
「敵に無防備な横腹を突かれたように思われますが、そうではありません。イノス星系防衛艦隊の背後には、我が方についたナッツカートの機動要塞があり、これと協力して敵の別働隊を挟撃するチャンスです。各戦隊各艦は、慌てる事無く迎撃に専念してください」
ナルガヒルデの指示で、直率の第2戦隊の戦艦五隻が主砲塔を右舷側に旋回し、一斉射撃を行う。それにやや遅れて、第2戦隊の下方を同航している、第10戦隊の重巡六隻も主砲を発砲。黄緑色の曳光粒子を纏った反陽子ビームが、イノス星系防衛艦隊が接近して来る方角へ幾条もの光の帯を伸ばすと、一瞬後、漆黒の宇宙空間に複数の閃光が煌く。
すると敵艦隊の反撃。こちらは主砲ビームに赤い曳光粒子を纏っている。三十本余りのビームが第2戦隊と第10戦隊の、戦艦と重巡航艦の間を擦り抜け、幾つかは命中弾となる。だがそれらは全て、各艦が右舷側に展開したアクティブシールドに阻まれた。
「距離を詰めます。全艦右舷へ一斉回頭!」
第2戦隊旗艦『ゼルンガード』に座乗するナルガヒルデの、落ち着いた声の命令で、それぞれに単縦陣を組んでいた五隻の戦艦と、六隻の重巡が同時に右方向へ舵を切る。さらにナルガヒルデは、後続する第6宙雷戦隊にも命令を出した。
「第6宙雷戦隊は針路を040マイナス06へ。迂回針路を取りカルツェ様の部隊との間に、楔を打ってください。雷撃のタイミングは任せます」
そしてこれこそが、ナルガヒルデの将才であった。この女性武将が宙雷戦隊を差し向けた先は、カルツェ/モルザン星系連合艦隊とイノス星系防衛艦隊の中間点…つまり、敵の両艦隊が作戦を変更し、前進させた主君ノヴァルナの艦隊に対する連携攻撃を目論んだ場合に備え、これを阻害する位置に第6宙雷戦隊を配置しようというのだ。
事実、この動きに戦術状況ホログラムで気付いたカルツェは、眉間にギチリと皺を寄せた。カルツェはノヴァルナが部隊を二つに分けた事で、イノス星系防衛艦隊も二つに分離、一方にノヴァルナ艦隊の足止めをさせようとしていた矢先だったのである。
「ええい、小賢しい…」
苛立つカルツェ。するとそこへモルザン星系艦隊司令の、シゴア=ツォルドから連絡が入った。四角く赤ら顔のジェヴェット星人の顔が、通信ホログラムスクリーンに映し出される。
「カルツェ様。ここは我等モルザン星系艦隊に、お任せ下さい」
「ツォルド殿」
「ノヴァルナ様はやはり一筋縄ではいかぬ相手。ここは我等が足止め致します故、超空間転移地点までお早く!」
そう言うが早いか、カルツェ艦隊と並走していたモルザン星系艦隊は、百八十度の反転を始めた。しかし、ノヴァルナ艦隊の前でその動きは良くない。かつての主君ヴァルツが指揮を執っていれば、決して取らない艦隊運動だ。これを『ヒテン』の格納庫内、『センクウNX』のコクピットに展開した、戦術状況ホログラムを見ていたノヴァルナは、すかさず命令を発した。
「全艦! 前方で針路変更中のモルザン艦隊に集中砲火! 艦載機発進! 俺達も発艦する!!」
即座にノヴァルナ艦隊の各艦が主砲の火蓋を切る。無数のビームと対艦誘導弾がモルザン艦隊に襲い掛かり、動きを鈍らせた。そしてここまでの戦闘で損傷を受けていた艦は、この攻撃に耐えきれずに爆発を起こす。
その間にノヴァルナも『センクウNX』に乗り、『ホロウシュ』に加え全BSI部隊を率いて出撃していた。
「こちらウイザード・ゼロワン。1宙戦(第1宙雷戦隊)は俺達に続け。第1戦隊はモルザン艦隊を叩きつつ突破し、援護しろ。4航戦(第4航宙戦隊)と6航戦(第6航宙戦隊)は空母を後方に下げ、軽巡と駆逐艦で残敵掃討にあたれ」
ノヴァルナは『センクウNX』をモルザン艦隊ではなく、その脇を航過していくカルツェ艦隊へ向けながら、矢継ぎ早に指示を出す。少ない戦力を補うため、対艦装備にした自分の機体と『ホロウシュ』、そして後続する第1宙雷戦隊によって、カルツェ艦隊の各戦隊旗艦を狙う作戦だ。カルツェ自身が乗る旗艦『リグ・ブレーリア』が第一目標である事は当然だった。
閃光を放ち、爆発するモルザン艦隊の重巡航艦の姿を視界の右端に収め、ノヴァルナ率いるBSI部隊はカルツェ艦隊を追う。
「ウイザード・ゼロワン。こちらソードマスター。カルツェ様の艦隊が星系外縁部に到達した模様」
“ソードマスター”とは総旗艦『ヒテン』の、コマンドコントロールのコールサインであった。「了解」と応じたノヴァルナは、クロノグラフに目を遣る。予想通りならば、あとニ十分でカルツェ艦隊は統制DFドライヴが可能になるはずだ。それまでに最低でもカルツェの旗艦を、行動不能にしなければならない。
そのカルツェはついにイノス星系外縁部に達し、超空間転移と、ノヴァルナ部隊を迎え撃つ準備を開始していた。しかしここで些か奇妙な会話が、カルツェとミーマザッカの間の通信で交わされている。
「第一次DFドライヴまでの時間は?」とカルツェ。
「十分弱…といったところです」とミーマザッカ。
DFドライヴが可能になるまで十分弱とは、ノヴァルナ達が予想した約ニ十分の半分ほどの時間だ。これはどういう事なのか。ミーマザッカの言葉に軽く頷いたカルツェは、淡々とした調子で告げた。
「モルザン星系へ着いたら、すぐにヤーベングルツ家と連絡を取り、イマーガラ家との仲介を要請する。ナルミラ星系にはイマーガラ家の重臣、モルトス=オガヴェイもいるはずだ。話は早いだろう」
▶#06につづく
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます