第16.5部:動く星、佇む星

#00

 



広いベッドだった―――




 首都惑星バサラナルムのイナヴァーザン城に帰って二週間…今でもベッドの広さに慣れられずにいる。子供の頃から使用して来た、自分のベッドなのにだ。


 いや、慣れられずにいるのはベッドだけではない。自分の部屋の広さ…そしてそこに、自分一人しかいない事にも慣れる事が出来ない。ここが自分の国、自分の城、自分の部屋だというのに…あの惑星アデロンでノヴァルナと僅か一週間だけ暮らした、小さな植民星開拓民用の簡易住宅の方が懐かしく感じてしまう………




また今夜も寝付かれないみたい―――




 諦めたノアは上体を起こし、照明を消した部屋に青白い月明りを差し込ませる、大窓の外に目を遣った。夜の空を一杯に取り込んだその大窓からは、バサラナルムの天を巡る氷の帯が、キラキラと輝いているのが見える。


 美しい光景だった…ただそれは、今のノアにとっては寒々とした美しさだ。




 奇妙なものだと思う。ノヴァルナといて、一緒に戦っていた時は、自分がこんなに強い気持ちでいられる事が誇らしかった。それが今、一人でいる心細さに、自分がこんなにも弱い事を知り、肩を震わせそうになるなんて………




あなたのせいよ―――




 強気な笑みで気取ったポーズを見せるノヴァルナの姿を思い浮かべ、ノアは対照的な困り顔の微笑みを浮かべてみる。


 互いの家に訪れた仮初かりそめの同盟…仮初めの平和………少なくとも二人の家の人間はそう思っているはず………




だけど仮初めでは終わらせない―――




 視線を落とすとそこには、ベッドの上で体を起こした自分の右掌てのひらがある。その指を軽く握ると、ノヴァルナの言葉が甦る。


「おまえはもう、俺の手を二度と離すんじゃねぇ!!!!」




―――うん、離さないよ。




 本気でなければあんな“作戦”なんて承諾しなかった。二人とも本気だったからこそ、人前であんな…あんな…馬鹿な真似を………


 二つの宙域に響き渡る結婚宣言の時の光景を思い起こし、自分で頬を染めたノアはもう一度、窓の外に視線を移す。これでは余計に寝付けなくなるだけだ。外の夜空では衛星軌道の氷塊の帯が、相変わらず銀の河のように美しい。小さくため息をついたノアは、今の気持ちを言葉にして呟いた………




「会いたいな………」






#01につづく

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る