第2話 電話の裏からの真実

「お分かりいただけましたでしょうか、龍さん」


 白衣を来た一人の男性が、目の前にあるその大きなスクリーンに、一通りVTRを流した後、呟いた。


「はい、大体は」


 龍と呼ばれた男は、何とかそう口にするのがやっとだった。

 どうぞ、お座りください、と白衣の男は龍に向かって、促した。

 龍が座ると、机の上に差し出されたコーヒーはもうすでに口をつけないまま冷えきっていた。


「でも本当にこれが俊が見ている夢なんですか?」


 白衣の男は頷いた。


「そうです、毎晩あなたと電話する夢をみている『夢』をみています。

もうかれこれ一か月以上目を覚ましていません。このままでは、点滴からの栄養も限界があります、いずれは命を落としかねません」


 龍は思わず、遠くに目をやった。

 そこには自分との電話を毎晩夢に見ながら、そのまま命を落としかねない旧友が横たわっていた。点滴をいくつも繋がれながら、目を覚ます様子の無いその変わり果てた姿に、龍は動揺を隠せなかった。


「分かりました。それで、私に何をしろと?」


 白衣の男はその言葉を待っていたかのように口を開いた。


「俊さんがこの原因不明の意識障害に陥ってから、多くの専門家がこの原因を追究しましたが、どうしても分かりませんでした。そこで、この装置『DC2393』の試験適応となったのです。この装置は頭の中を覗きます。体は動かないけれど意識ははっきりしている『閉じ込め症候群』などに使われるものです。これを使う事により、その人が昏睡状態であったとしても何を考えているかが分かるんです。そして、この装置を使ってみると、どうやら俊さんはあなたの夢を繰り返し見続けていることが分かったんです」


 龍は一つ唾をごくりと飲み込んだ。


「また、この『DC2393』は夢に介入します。言葉程度の信号だけなら、脳に直接送り込んで、その夢に影響を与える事が出来るんです。そこで、あなたの出番です。あなたに、俊さんの夢の中で、俊さんに電話をかけてもらいます。そこで、俊さんの抱えている苦悩を解除してあげて欲しいのです。そうすればきっと俊さんは目を覚ましてくれるはずです」


 にわかに信じ難い話ではある。しかし、ここまで大掛かりな装置と旧友本人の横たわる姿を見せられてしまっては、後には引けない。龍は提案を受け入れた。


 言われた通りに、マイクの前に座った。


 白衣の男は一つ、頷くとスイッチを押した。


「お、龍、久しぶり。どうした? こんな突然電話なんかかけてきて。何かあった?」


「いや、ちょっとな。お前の声聞きたくなってな」


「何か、キモいな。お前そんなキャラだったっけ?」


「高校時代の親友が、10年振りに電話してきたってのに、キモいは無いやろ」


「……あぁ。……でも、本当に何も無いんか?」


「え? 本当に無い。何で?」


「……え、いや。久々だからかもしれんけど」


「しれんけど?」


「……うん。お前何か変やぞ」


「変やないって。本当にどうもない。勘ぐりすぎやって」


「お前、まさか……。死のうとしてるやなかろうな」


「おい俊、何を馬鹿なこと。そんなんやないって」


「……なあ、頼むからそんなことは止めてな。もし何かあるんやったら、今からでもそっち飛んで行くから。な? 死んだらどうにもならんて。頼む、約束してくれ、な? 龍」


「大丈夫、大丈夫やって。じゃ、またな」


 回線が途切れた。


 白衣の男はがくりと頭を落とした。


「ダメです、変わりません」

「でも、どうしたら?」

「俊さんは、夢の中で、あなたが自殺したと思い込んでいる。それについて、あなたがそんなことは無い事を分からせないといけない」

「そんな、でも言ってもダメだったじゃないですか」


 白衣の男は少し黙っていた。


「一つだけ気になる事があります」


 龍は眼を大きく見開き、男を見つめた。

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