10月6日  学生・未成年者のカフェー・バーへの出入りを禁止した日

 やあやあ諸君。

 私の名はいずく。いずくかけると申す者だ。


 諸君らは今日と言う日を如何にお過ごしだろうか。日々は刻一刻と進む二十四時間の連鎖であるが、それは円環ではなく螺旋であり、繰り返しではなく積み重ねである。だがしかし、中にはどうもそれを理解していない者が多い。

 私の話を聞き入れ、今日と呼ばれる日が先人達が積み重ねた如何なる日なのかを知らば、諸君らの過ごす毎日にも色が付くのやも知れぬ。




 本日2017年10月6日は「学生・未成年者のカフェー・バーへの出入りを禁止した日」である。


 諸君らはオサレなカフェが好きな事だろう。都心の駅にあるスターバックスなんか、覗き込むたびマックブックを操る意識高い系の学生で満ちている。

 私も外で文を書く際は、どこかでコーヒーを飲みながら、と言うのが多いのだが、どちらかと言えばカフェより喫茶店の方が多い。どうもあのカフェの雰囲気に馴染めず、私の様な日陰者には喫茶店の方が居心地が良いのである。

 カフェは唯の飲食店にあらず、自分の時間を理想の空間で楽しめるサービスを提供しているが、そんなカフェを禁じる法案があった事をご存じだろうか。


 1934年、警視庁が学生・未成年者のカフェー・バーへの出入りを禁止する通達をだした。決してカフェインの取り過ぎを危惧しての事や、子供は子供らしく、大人びた事をするんじゃないといった中年からの圧力があったわけではない。

 当時のカフェと言うのは、世間一般に印象が余り宜しくなかったからである。


 1923年の関東大震災後、世間では女給のサービスを売り物にするカフェーがちらちら現れだした。例えば着物が派手で客に体をすり付けて話をする、といった是非とも行ってみたいサービスで人気を博したり、1933年には、カフェーは特殊喫茶として警察の管轄下に置かれることになったのだ。

 故に、飲食店としてコーヒーを楽しんでもらおうとする店を純喫茶と呼び、今なおその名残が残っている。


 似たような形式でノーパンしゃぶしゃぶと言うものも流行った。女性店員にノーパンでミニスカートを履かせ、鏡張りの床で楽しみながらしゃぶしゃぶを提供すると言うなんとも行ってみたいサービスであったが、この店の利点は風俗店ではなく飲食店であるという事である。

 つまり、会社名義で『御飲食代』として領収書をきることが出来るのだ。


 今とて例外では無い。ソープランドと呼ばれる風俗店は、法律で禁止されている売春行為、すなわち本番行為を提供する思いっきり行ってみたいサービスではあるが、店側はそのサービスを公にしていない。

 そもそも料金表にご入浴料と提示してある。つまり、ソープランドとは個別に仕切られた風呂屋であり、体を洗う手伝いをコンパニオンにしてもらい、二人でなんやかんやうまくいって、コンパニオンにサービス料を支払い事に及ぶ、という、屁理屈を何十年も営業しているのだ。


 何時の時代も法の抜け口を縫うように、性的な店は継続し営業されてきた。有史以来、人間が初めて行った商売である風俗。なんともけしからん話である。




 今日は学生・未成年者のカフェー・バーへの出入りを禁止した日。特別な一日である。

 我々は本日を祝福し、過ごさねばならないだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る