7月26日 幽霊の日

 やあやあ諸君。

 私の名はいず……、おっと。塚本。塚本ジュリエッタと申す者だ。


 諸君らは今日と言う日を如何にお過ごしだろうか。日々は刻一刻と進む二十四時間の連鎖であるが、それは円環ではなく螺旋であり、繰り返しではなく積み重ねである。だがしかし、中にはどうもそれを理解していない者が多い。

 私の話を聞き入れ、今日と呼ばれる日が先人達が積み重ねた如何なる日なのかを知らば、諸君らの過ごす毎日にも色が付くのやも知れぬ。




 夏こそ怪談。本日2017年7月26日は「幽霊の日」である。


 幽霊の日は1825年に江戸の中村座で四世鶴屋南北よだいめ つるや なんぼく作の『東海道四谷怪談』が初演された日である。東海道四谷怪談とは、夫である民谷伊右衛門に毒殺された四谷左門の娘お岩の復讐話で、なんと、実際に江戸で起こった事件がモデルとなっている。


 四谷怪談と言えば日本で最も有名な怪談かと思われるが、実際にその全容を知る者は多くない印象を受ける。

 簡単にあらすじを説明すると、伊右衛門と結婚したお岩であったが、ある日父親に引き取られる事になる。これはお岩の父親が伊右衛門の悪事を知り、娘を引き取ろうと考えたためである。

 しかし伊右衛門はお岩との復縁を望み、それを断るお岩の父親を遂には殺害してしまう。それを知ったお岩は大層悲しんだが、犯人が誰かを知らなかった。伊右衛門はお岩に必ず仇をとると話し込み、二人は復縁する事になる。


 お岩はその後に伊右衛門との子供を孕むが、産後の肥立ちが悪く病がちになってしまう。一方伊右衛門は別の女に惚れられており、またその家から婿入りを望まれていた。伊右衛門はお岩との離縁を画策し、お岩に毒を盛る。それが原因でお岩の容貌は崩れ、苦しみ置いてあった刀で命を落とす。お岩の遺体は川へと流された。


 伊右衛門は計画通りに婿に入る事に成功したが、婚礼の晩に幽霊を見て錯乱し、婚姻相手とその父親を殺害する。その後も幽霊に苦しめられていた伊右衛門は、お岩の妹の旦那に見つかり、仇を討たれた。


 死後の世界は存在するのか否か。それは死んでみてからのお楽しみであるが、日本にはこう言った怪談が多数存在する。武士の様に、この世に一片の悔いなく自害する人達がいた傍ら、やはりこの世に未練を残し死んでいった人たちが多かったのだろうと感じざるを得ない。

 だが、もし、お岩の様に死んだ後に誰かに復讐できるというのならば、この世はもう少し秩序が保たれるのかもしれない。一番の理想は死んでしまう前に手を打つことではあるが。




 今日は幽霊の日、特別な一日である。

 我々は本日を祝福し過ごさねばならないだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る