7月15日 お盆

 やあやあ諸君。

 私の名はいずく。いずくかけると申す者だ。


 諸君らは今日と言う日を如何にお過ごしだろうか。日々は刻一刻と進む二十四時間の連鎖であるが、それは円環ではなく螺旋であり、繰り返しではなく積み重ねである。だがしかし、中にはどうもそれを理解していない者が多い。

 私の話を聞き入れ、今日と呼ばれる日が先人達が積み重ねた如何なる日なのかを知らば、諸君らの過ごす毎日にも色が付くのやも知れぬ。




 本日、2017年7月15日は「お盆」である。


 お盆とは諸君らもご存じの通り、祖先を祭る日本の伝統行事である。お盆と呼ばれるようになった所以は、先祖への祀りものを置いたお盆からきており、それが仏教用語の「盂蘭盆会」の略称として定着したという説がある。

 地方によって多少の違いは生じるが、主に迎え火であの世、霊界、はたまた天国から来た祖先を迎え入れ、送り火によってまた帰すというのが一般的である。


 お盆と言う行事をよく知らない人でも、「精霊馬」と言う飾り物を目にした事はあるだろう。きゅうりとなすに割り箸を突っ込んだあれである。これは祖先を馬にみたてたきゅうりでなるべく早く戻ってきてもらいたい。逆に牛にみたてた茄子であの世に帰るのはなるべく遅くしてもらいたいと言った願いが込められている。


 さて、これでお盆と言う行事のイメージがある程度伝わったかと思う。わざわざあれやこれやと準備をし、迎え入れ、そして送り出すこの行事ではあるが、ひとつおかしなところがある。


 日本人って、幽霊嫌いじゃないの?


 祖先の霊と幽霊を一緒にするなと言われそうだが、ここはあえて言わせてもらう。映画やドラマ、主にホラー物と呼ばれる作品に多く登場する霊的な存在。日本人はそれらに恐怖し、そして商業化してきた。主にジャパニーズホラーと呼ばれる作品にはまず間違いなく幽霊の類がでるだろう。

 心霊写真、呪い、ホラースポット。普段は霊を悪しきものとして見ている我々日本人が、なぜか一年に一度その霊を歓迎する日。それがお盆なのだ。


 想像してみて欲しい。もしも諸君らが他界して、その後に盆になり実家、子孫の家に帰ったとしよう。だが、もしも諸君らがその日付を一週間間違えていたとしたら……。

 おそらく家には塩がまかれ、仏教関連の僧が呼ばれ、家族は怪しげな心霊グッズに手を出すかもしれない。お盆に興味が無くても、自分が死んだ時の為にその日にちくらいは覚えておいた方がいいのかもしれない。




 今日はお盆、特別な一日である。

 我々は本日を祝福し過ごさねばならないだろう。

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