7月2日  エスコバルの悲劇

 やあやあ諸君。

 私の名はいずく。いずくかけると申す者だ。


 諸君らは今日と言う日を如何にお過ごしだろうか。日々は刻一刻と進む二十四時間の連鎖であるが、それは円環ではなく螺旋であり、繰り返しではなく積み重ねである。だがしかし、中にはどうもそれを理解していない者が多い。

 私の話を聞き入れ、今日と呼ばれる日が先人達が積み重ねた如何なる日なのかを知らば、諸君らの過ごす毎日にも色が付くのやも知れぬ。




 その競技はボール一つあればどこでもできる。そんな手軽さから、先進国から発展途上国まで世界各国で広く楽しまれている競技、サッカー。お気に入りのプロチームを応援するファンはサポーターと呼ばれ、彼らの熱意は並みならぬところである。だが、そんな熱意が起こして悲劇を、諸君らはご存じだろうか。本日、2017年7月2日は「エスコバルの悲劇」である。


 エスコバルの悲劇とは、1994年に起きた殺人事件、及びこの殺人事件が起きるまでの過程を指した一連の事件である。


 27歳、南米屈指のディフェンダーとして知られていたコロンビア代表のアンドレス・エスコバルは、チームと共にFIFAワールドカップ予選に臨んだ。

 予選大会では強敵、アルゼンチンを5-0で破り、コロンビアは南米予選をトップの成績で通過する。当然本予選も期待され、優勝候補だと囁かれていた。


 だが、初戦のルーマニア戦に1-3で破れ、後がなくなったコロンビア代表は続くアメリカ戦に臨む。だが、このアメリカ戦の前半35分、痛恨のオウンゴールを決めてしまう。その後に一点の追加点が入り、コロンビアは終了間際に一点返すも、1-2で敗北してしまった。


 チームはワールドカップの開催国、アメリカで解散となったが、選手の多くは国民の非難、報復を恐れて帰国を拒否し、アメリカに留まった。だが、オウンゴールの張本人アンドレス・エスコバルは、「自分はあのオウンゴールについてファンやマスコミに説明する義務がある」と、唯一人コロンビアへと帰国したのである。


 そして7月2日深夜3時ごろ、アンドレス・エスコバルは知人とバーに行った際、店から出た瞬間に12発の銃撃を受けて死亡した。犯人のウンベルト・ムニョス・カストロは、銃撃の際に「オウンゴールをありがとう」という言葉を口にしたと言う。

 この事件発生時はまだワールドカップは開催中であり、直後のドイツ-ベルギー戦とスペイン-スイス戦では彼の死を悼みキックオフ前に黙祷が捧げられた。


 その後4年間、アンドレス・エスコバルの付けていた背番号2は欠番とされ、2007年にはFIFA公認のストリートサッカー大会が世界で初めて開催された。優勝トロフィーにはアンドレス・エスコバル杯と名付けられ、フェアプレー精神、非暴力を理念として掲げられている。


 いくら熱狂していても、熱心に応援していても、私財を投入していても、所詮は一ファンであることに変わりはない。そこまでコロンビアを優勝させたかったら、自分が選手になりチームに貢献すればよかっただけの話である。当然の如く殺す権利も、誹謗中傷する権利も発生するわけがない。


 そして、同じことが最近結婚宣言したAKBの一人にも言えると私は考える。怒り狂うファンは所詮はファン、他人であり、本人の人生にまで関与する権利なんてあり得ない。

 ましてや、アイドルなんだから夢を壊すなとか偉そうにコメントしている人間を一発で論破する言葉を私は知っている。


 だっておまえらさ、アイドルに告白されたら絶対付き合うだろ?

 叩いてる人間はただ人の幸せが妬ましいだけなんだよ。




 今日はエスコバルの悲劇、特別な一日である。

 我々は本日を祝福し過ごさねばならないだろう。

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