6月11日 「かぐや」が運用終了となった日
やあやあ諸君。
私の名はいずく。いずくかけると申す者だ。
諸君らは今日と言う日を如何にお過ごしだろうか。日々は刻一刻と進む二十四時間の連鎖であるが、それは円環ではなく螺旋であり、繰り返しではなく積み重ねである。だがしかし、中にはどうもそれを理解していない者が多い。
私の話を聞き入れ、今日と呼ばれる日が先人達が積み重ねた如何なる日なのかを知らば、諸君らの過ごす毎日にも色が付くのやも知れぬ。
本日、2017年6月11日は「かぐや」が運用終了となった日である。かぐやとは日本の月周回観測衛星であり、JAXAが打ち上げ、別名をセレーネと言った。
2007年の8月に打ち上げられる予定であったが、天候の悪化やコンデンサの取り付けミスにより9月に延期される。打ち上げられてからは、約1年半もの間月の軌道を飛び続け、2009年に月面に制御落下し役目を終えた。
今日の話は、かぐや姫についてである。
諸君らは竹取物語と言うおとぎ話をご存じだろうか。いや、これは失礼。もはや知らない人などいないだろうがおおまかにあらすじを振り返ると、昔々、あるところに竹取と呼ばれる商売、山で採ってきた竹でかごやざるを作る商売を営むおじいさんがおったそうな。ある日、山へ竹を取りに行ったそのおじいさんは、一本の竹の根元がぼんやりと光っているのを発見した。不思議に思ったおじいさんがその竹を切ると、中には女の子が入っていた。
子供のいなかったおじいさんは女の子を連れて帰った。すると、女房のおばあさんも大喜び。二人はその女の子を自分たちの子供として育てようと決める。
次の日から、おじいさんが仕事で竹を取りに行くと、切った竹の中から黄金を見つける事がままあった。そのおかげで、おじいさんの家は大金持ちになったそうな。
拾ってきた女の子はたった3ヶ月ですくすく育ち、それはそれは美しい女性に成長したそうな。女の子は不思議な事に、暗いところにいてもぼんやりと光って見える事から、『あわくゆらめく様に光り輝くお姫さま』と言う意味を込めてかぐや姫と名付けられた。
そんなかぐや姫を世の男共が放っておくわけがない。中でも、権力を持っていた5人の王子は熱心にかぐや姫に求婚した。そこでかぐや姫はこの5人に持ってきてほしいものがあると、無理難題を出すのである。5人はかぐや姫を諦め、その話が日本で一番の権力を持つ帝の耳へと入った。
帝はかぐや姫を宮廷へと招待するが、かぐや姫はこれをも拒否する。やがて帝とかぐや姫は和歌を交換する仲になり、それから3年後、おじいさんは一人泣いているかぐや姫にその理由を窺った。
かぐや姫は心境を語る。実はかぐや姫はこの国の人間ではない事。次の十五夜に月に帰らなければならない事。それが悲しくて泣いていたとの事だった。
それを聞き入れた帝は十五夜の夜、二千人もの軍勢をもってかぐや姫を守ろうとした。だが、雲に乗って現れた月の住人には弓矢など通用しなかった。かぐや姫は連れ去られる直前、帝宛の不老不死の薬と手紙をおじいさんに渡し、天女の羽衣を身にまとい月の光の中へと消えていったのである。
それを受け取った帝は、かぐや姫がいなくなったショックから何日も食事を取らなかった。そして、手にした不老不死の薬と手紙を、かぐや姫が帰った月に一番近い場所で燃やすように指示を出す。最愛の人がいない今、不老不死など帝にはなんの意味も無かったからである。
大臣は帝から渡された薬と手紙を、駿河の山頂で燃やした。あまりに高いその山は、並大抵の者では昇ることが出来ず、大臣は大勢の士を連れていったそうな。
この事からその山は、士が富む山として富士山と名付けられ、山頂で燃やされた薬が煙となり、雪に付着したせいでその雪が万年雪となり、いつまでも富士山の山頂に残っていると言われているのである。
今日は「かぐや」が運用終了となった日、特別な一日である。
我々は本日を祝福し過ごさねばならな――
おっと。
前置きが長くなったが今日はここからが本番だ。
実はこのかぐや姫、一部の都市伝説マニアの間では実在していたとされているのだ。いや、実在していると言った方が正しいか。
では彼女が今、一体どこにいるのかと言えば、それは月ではなく、地球のどこかに帰ってきているのだと言う。
情報の発信元はアポロ20号までの計画に携わった元NASA職員のウィリアム·ラトリッジ氏だと言われている。
彼の話によれば、世間的に公表されているアポロ計画は17号で打ち切りであったが、実は20号までがその全容であったそうだ。アポロ15号が月の裏側で発見した謎の宇宙船を調査する為、そこから極秘裏に計画が進められていたのだと言う。
1976年にアポロ20号が月面の宇宙船の調査に成功する。その内部ではミイラ化した2人の女性の遺体が見つかったそうだ。身長は約165㎝。黒髪で指が6本あったと言う。宇宙船の内部には、彼らの文明の言語があったそうだが解読する事は出来なかった。
ウィリアム·ラトリッジ氏は、宇宙船上の隕石の衝突の濃度から、その宇宙船が約150万年前のものであると推測する。
ミイラには宇宙船の操縦用の装置が指と目に付けられており、ミイラの回収の際にそれらを外している。口、鼻、目。体のいくつかの部位から血液の様な液体が噴き出し凝固したそうだ。なお、死んでいるとも生きているとも言い難い状態であったと残されている。
つまりはこのミイラの内一人がかぐや姫であり、実際に地球から月へと帰った時の様子がおとぎ話として残されていると言った都市伝説である。一部では蘇生に成功し、地球上に生存しているだとか。生物学的にあり得る話なのかと言えばとても信じられないが、かぐや姫は不老不死の薬を手にしていたのである。もしそれが本当なら生きていたとしてもおかしくはない。
確証も無いし根も葉もない。だが、火のない所に煙は立たない。なによりも、こういった話にはとてつもないロマンが込められており、気付けば興奮してとんでもない文字数になってしまった。
ああ、月行ってみたいなあ……。
今日は「かぐや」が運用終了となった日、特別な一日である。
我々は本日を祝福し過ごさねばならないだろう。
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