4月15日 東京ディズニーランド開園記念日

 やあやあ諸君。

 私の名はいずく。いずくかけると申す者だ。


 諸君らは今日と言う日を如何にお過ごしだろうか。日々は刻一刻と進む二十四時間の連鎖であるが、それは円環ではなく螺旋であり、繰り返しではなく積み重ねである。だがしかし、中にはどうもそれを理解していない者が多い。

 私の話を聞き入れ、今日と呼ばれる日が先人達が積み重ねた如何なる日なのかを知らば、諸君らの過ごす毎日にも色が付くのやも知れぬ。




 日本には様々なテーマパークが存在するが、その中で一番を挙げるなら大阪のユニバーサルスタジオジャパンと並び、ここを思い浮かべる人が多いだろう。世界のテーマパーク、アミューズメントパークの中でも来場者数は第三位であり、広くの国民のみならず外国人観光客からも愛されている。本日、2017年4月15日は『東京ディズニーランド開園記念日』である。


 誰しもが知る東京ディズニーランドが開園したのは1983年の事である。現在、昨年オープンした台湾ディズニーランドを含めて世界に6つのディズニーランドが存在するが、アメリカ国外初となったのは東京ディズニーランドであった。開園当時の入園チケットは2500円。アトラクションを楽しむにはさらに別のアトラクション券を購入する必要があった。これは2001年の4月に廃止され、現在のパスポート制へと変更される。


 諸君らは最近ディズニーランドに訪れただろうか。私はと言うと、もう10年以上も遊びに行っていない。私の住んでる場所から電車で行けない距離ではないし、行きたいとはいつも思っているのだがなんにせよ相手がいないのだ。

 相手がいなくとも一人でいける人はいい。だが、私の場合は無理だった。無理だったと言うと、実際試したことがあるみたいな言い方だが、まさにその通り。私はたった一人、19の頃に東京ディズニーランドを訪れたことがある。


 当時専門学生であった私は、家から学校へと通う際、窓へと打ち付けられる雨を見て思っていた。


――外に出たら濡れてしまう


 気付けば私は東京駅で山手線から京葉線へと乗り換えていた。傘を持っていなかった私は駅から外に出る事を拒絶したのだ。と言うのは表向きの言い訳で、実際は学校に行きたくなかっただけである。ただサボってどこか遠くへ行きたかっただけなのだ。学校からどんどん離れていく電車に私の心は高揚した。窓の外には遠く海が見える。突然訪れた非日常。世間知らずだった私には一本電車を乗り換えただけでものすごい冒険をしているように感じられた。葛西臨海公園駅を過ぎ、舞浜駅が近づくにつれ、東京ディズニーランドのシンボル。シンデレラ城が目に入る。

 幼き頃、両親と訪れたディズニーランド。無意識に私は電車から降りていた。人混みに続くように足を運ぶと、目の前にはチケット売り場に並ぶ人々の行列が出来ていた。


 私は財布の中身を確認する。なんとかバイト代で園内には入場できそうであった。緊張しながら自分の番を待っていたが、周りを見渡して一人キリの人間は私だけであった。それに気づいた瞬間、私はその行列から外れてシンデレラ城を眺めた。

 

 両親の力を借りず初めて自分の意思で来た東京ディズニーランド。幼き頃の思い出が蘇る。日本人なら知らぬ者がいないほど有名な地。そこまで来たと言うのに、私にはその感動を共有できる人間がいなかったのである。今であればSNSでディズニーランドなうと誰かしらとその日の出来事を共有できるだろうが、当時はスマートフォンすらない時代。このまま園内に入り、どんなショーを見ても、アトラクションを楽しんでも、誰とも共有できない事に気付いたのである。

 シンデレラ城に背を向け、舞浜駅へととんぼ返りする私は心の中で誓っていた。今度この地に訪れるときは、必ず自分以外の誰かと訪れようと。その時まで、楽しみは大切にとっておこうと。


 あれ以来、私はディズニーランドに訪れていない。だが今日この日、遂にあの日の思い出を諸君らと共有する事が出来た。さらに私のスマートフォンにはTwitterもフェイスブックもインストールされている。


 さすれば――


 機は熟した――




 今日は東京ディズニーランド開園記念日、特別な一日である。

 我々は本日を祝福し過ごさねばならないだろう。

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