3月8日 万世橋が開通した日
やあやあ諸君。
私の名はいずく。いずくかけると申す者だ。
諸君らは今日と言う日を如何にお過ごしだろうか。日々は刻一刻と進む二十四時間の連鎖であるが、それは円環ではなく螺旋であり、繰り返しではなく積み重ねである。だがしかし、中にはどうもそれを理解していない者が多い。
私の話を聞き入れ、今日と呼ばれる日が先人達が積み重ねた如何なる日なのかを知らば、諸君らの過ごす毎日にも色が付くのやも知れぬ。
私はこの橋が大好きである。丁度この橋の隣には設定が入ると有名なパチンコ屋が居を構えており、朝からそこに並んでは、大抵負けてこの橋を訪れていた。せわしなく多くの人々が歩き去る中、対照的にゆったりと流れる神田川を眺めながら、今ここで飛び込んだら負け金が返ってこないかなあとくだらない事を一時考え、中身の無い財布を秋葉原駅の改札にぶつけるのであった。本日、2017年3月8日は『万世橋が開通した日』だ。
万世橋は秋葉原の電気街の南端に位置し、神田川をまたぎ隣の神田駅周辺と繋がる石とコンクリートによりできたアーチ橋である。正確には万世橋と初めて呼ばれた橋は1676年に作られた
他の小説で紹介した事もあったが、万世橋の目の前には『肉の万世』と言うステーキ屋の本店がある。これは万世橋を語源としたものであり、決して逆ではない。また、この付近の治安は『万世橋警察』により維持されている。
かつて、秋葉原と言えば週末の歩行者天国が名物であった。日曜祝日の正午から夕方5時までは中央通りが完全に封鎖され、万世橋も自動車の通行が禁止されていた。2008年に歩行者天国が廃止される事になるが、2011年の再開時には万世橋を含む万世橋交差点の交通が可能になる変更があった。
なぜ2008年に歩行者天国が廃止されたのか。今更説明する必要もないかと思われるが、この年に起きた『秋葉原通り魔事件』による影響である。
週末の歩行者天国で賑わう街並みに一台のトラックが突っ込み、犯人の男が通行人を切りつけた、たった10分程度の事件は7名の命を無慈悲に、そして無意味に奪っていった。
私はこの時、現場近くのバイト先に向かう途中であった。多くの通行人が歩道に立ち止まり、身動きも出来ぬ程野次馬が溢れていたことを思い出す。その後、バイト先のテレビにて事件があった事を知るのだが、あの時もし少しタイミングが違えば私も巻き込まれていたかもしれない。
あの事件から10年近くの月日が流れ、歩行者天国も再開されると献花台も撤去された。私は再び万世橋を訪れる。相も変わらずゆったりと流れる神田川。目まぐるしく風景を変える秋葉原の中で、唯一あの時のままに、そのままに流れる神田川。秋葉原の日常はすでに戻ってきてはいるが、犠牲者の命が戻ってくる日は来ない。
今日は万世橋が開通した日、特別な一日である。
我々は本日を祝福し過ごさねばならないだろう。
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