2月18日 冥王星の日

 やあやあ諸君。

 私の名はいずく。いずくかけると申す者だ。


 諸君らは今日と言う日を如何にお過ごしだろうか。日々は刻一刻と進む二十四時間の連鎖であるが、それは円環ではなく螺旋であり、繰り返しではなく積み重ねである。だがしかし、中にはどうもそれを理解していない者が多い。

 私の話を聞き入れ、今日と呼ばれる日が先人達が積み重ねた如何なる日なのかを知らば、諸君らの過ごす毎日にも色が付くのやも知れぬ。




 さて、諸君らはどこに住んでいるだろうか。大阪? 東京? ひいては 東北? 日本? さらにはアジア? いやいや、今日はもっとスケールの大きな話をしようではないか。宇宙の話である。その規模で言うと、我々は地球に住んでいるわけだが、地球は太陽系にて太陽から3番目の惑星にあたる。そして今日は、太陽系で最も外側の惑星が発見された日だ。本日2017年2月18日は『冥王星の日』である。


 太陽系の惑星を太陽から順に並べると、水星、金星、地球、火星、木星、土星、天王星、海王星、冥王星と並ぶ。

 地球の衛星である月までの距離は約38万 kmであるが、地球から冥王星までの距離はと言うと、近い時で約48億km、遠い時だと約54億kmも離れている。

 うーん……。スケールが大きすぎていまいちピンと来ないが、分かりやすく言うと、距離を54億kmと仮定し、時速100キロで冥王星に向かった場合、到着するまでにかかる時間は6000年以上である。時速約11億キロの光ですら到着に5時間ほどかかる計算だ。肉眼では確認できない星だが、望遠鏡でその姿を拝むときは5時間前の星を見ていることになる。どうやら、月に行くのも必至な我々が生きているうちに冥王星に足跡を残すことは出来無さそうな距離ではあるが、世界中で反響を呼んだポケモンGOが、リリースから2ヶ月経った全トレーナーの総移動距離が46億kmであった事を聞くと、あまり大したことは無いようにも感じる。


 冥王星を発見したのは、アメリカの天文学者、クライド・トンボーだ。彼は1930年の2月18日、別の日に撮影した写真を見比べこの星を発見した。発見以前からこの星がある事は予想はされていたが、冥王星が予想以上に暗い星であった為、発見が遅れる事になる。

 その暗さから冥王星は、ギリシャ神話に登場する冥府の王、プルートと名付けられるのだが、(日本訳では冥王星)実はこの名付け親はヴェネシア・バーニーと言うギリシャ神話好きな11歳の少女であったことはご存じだろうか。様々な候補が上がる中、プルートの名に決定したのは、きっと一生の自慢になったに違いない。


 だが現在、冥王星は大きさや軌道から惑星から準惑星へと格下げされている。それが決定されたのは2006年であり、この年は第一発見者のクライド・トンボーの生誕100年の年であった。


 宇宙の話をすると、あまりのスケールの大きさに、自分自身がどうしようもなくちっぽけに思えてきてしまうのは私だけだろうか。大きさも、距離も、移動速度も歴史も、一惑星に住み続けるちっぽけな人間からしてみれば想像するのも難しい。大宇宙の前では、人間の些細な不安や悩みなんて、取るに足らないくだらない事なのである。

 私はそう感じて夜空を見上げ、瞬く星たちを見つめていると、この話の落ちが思いつかないことも、やはりどうって事ない問題だなと思った。




 今日は冥王星の日、特別な一日である。

 我々は本日を祝福し過ごさねばならないだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る