101 港、雲、歩く

暗い。目の前で手を動かしても何かがうごめく気配程度しか感じない。今本当に目を開いているのか、日本の足で立っているのかもあやふやだ。

足元に手をやると、ザラザラした冷たい感触がした。コンクリートはこんな手触りだっただろうか? それともアスファルト? 惨めなハイハイ姿勢でとにかく前に進む。掌と膝、つま先だけが自分が人間であることの証のようだった。

爪が固い物にぶつかってようやく自分が結構な時間歩いていたことに気がついた。木だろうか? 手で探っていると、スイッチが手に触れた

。つけるとボンヤリした明かりが目を刺す。光に鳴らしながら目を開くと初めて自分の立っている場所が見えた。

白い壁、灰色の地面。上を見上げれば天井には切れかかった蛍光灯が1本頼りなく瞬いている。どこかの会議室だろうか?

後ろを振り向く。そこの壁は白くなかった。絵だろうか。何かクレヨンのような荒い線で壁が青く塗りつぶされていた。天井には一部白いものが同じように塗りつぶされている。手で触れると滑らかな、ヌルヌルしたような、感触がした。

もう一度、後ろを振り向く。そこにも絵があった。同じもので書かれた、港の絵。一艘のヨットが港に浮かんでいる。帆には「ここは赤く塗る」と書かれていた。

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