88 黒、幻想、生産

「こんにちわー生命第一のものですいつもお世話になっております」

画面の向こうでおばさんがにこやかにそう言う。黒いスーツを着た二人のおばさん。もう一人は後ろで書類を持って同じような表情で立っている。

どうにも困った。保険の勧誘はいつもすぐに断るようにしているのだが、今日は徹夜明けで寝ぼけていたせいで少し話をしてしまった。押しに弱い私はなかなか断る糸口を見つけられず「はぁ」とか「あぁ」とか言ってお茶を濁す。ああダメだ。眠い。

面倒臭くなって話の流れをぶった切り、やっぱりいいですと言って一方的に切り上げ、もう一度布団に向かった。13時。7時に寝たにしては早く起きた。寝る前の朝ごはん(おかしな表現だ)を食べていなかったせいでエネルギーが空っぽで、お腹が空いたような逆に何も食べたくないような気持ち悪い感じがする。きっとこれから適当に勉強の本をパラ見しながらゲームで目を悪くするんだろう。学校があるときは休日が恋しがるが、毎週日曜の空が白むのを見ながら休日に生産的なことができるなんて幻想だったと気づくのだ。

そういえば保険の人たちは休日出勤で大変だな。もうあと何年もしないうちにこんな休日は無くなるんだよな。いやだなぁ。もっと生産的なことしなきゃ。そう思いながら、もう3度は同じページで読むのを断念した学術本をパラパラめくる。布団にはそう言った本が体の形を囲むようにしてちらほらと置かれていた。もちろん雑誌や充電器の方が多い。

今日は少し理解が進んだ。ご褒美にゲームやろう。

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