86 箱、セミ、秘密

 一時期お菓子の箱の中にセミの抜け殻を集めていたことがあった。外に遊びに行くと必ず木を調べて抜け殻をそっと剥がして集める。どんな理由だったかは忘れてしまったが、何が嬉しかったのか毎年虫かご二つか三つ文ほど集めていた。

 しかしそれをやめてしまった理由は覚えている。いつものように箱を持って出かけた時、ふっとセミ達が静まり返った。それでも構わず抜け殻を探していると木の上から折れた枝が落ちてきて、ちょうど真下にあった箱を潰してしまったのだ。そして慌てて枝をどかしてみると、中に入っていて一緒に潰れていたはずの抜け殻達は、何の痕跡も残さず消えてしまっていた。

 その時は気味が悪くなって、箱をそのままにして帰ってしまった。あとは目が覚めたように飽きてしまって、別の遊びを始めたと思う。ただしあれ以来、オカルト系の話で自然の大いなる意思、なんて言葉が出てくると、もしかして本当に……、と思ってしまうようになったのは、誰にも話さない自分の中の秘密だ。

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