54 リス、看板、飛び降り

 熊出没注意の看板にリスがいた。ぐったりと手足を投げ出して看板にもたれかかっている。今日は今年一番の猛暑、リス達もさすがに耐えきれないのだろうか。動きが鈍っているなら好都合だと、密猟業者は手元の縄を握りしめた。

 実はこの看板はこの業者が用意した罠なのである。実際この辺りでは熊の目撃情報がいくつかあるが、それを聞きつけて見つかっても目立たない罠を思いついたというわけだ。手元の縄を引くと板の隙間からトリモチが飛び出て逃げられなくなるという仕掛けである。

 さあまさに縄を引こうと取ろうとしたところで、不意に後ろでガサガサと音がした。仲間か。「シッ。静かにしろ。逃げられたらどうすんだよ」。返事はない。怪訝に思って振り向くと、そこには巨大な毛皮が立ち上がっていた。嘘で用意した看板が皮肉にも現実になってしまったらしい。

 業者は頭の中が真っ白になり、そのあとすぐに叫んで逃げ出した。リスはその音に驚いて看板から飛び降りた。その後の男の行方を知る者はいないという。

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