20 紫、コーヒーカップ、時間

 夕方の寒風に身を切られてながら、俺はコートの中に縮こまった。今年は今世紀最大の寒波が来ると言うのは本当だったようだ。去年まで慣れ親しんでいたこのコートもお役御免になりそうだ。

 いつものファミレスに立ち寄り、出入り口のすぐそばのテーブルにつく。店内は授業帰りの高校生らしき集団がいくつもいて、それが普段よりも活気と熱気を増しているようだ。メニューを見て安さ重視か暖かい肉類がいいか悩む間にも、また扉が開き新しい客が来る。そのたび冷たい風が一緒に入ってきて、なかなか体が温まらない。ここを選んだのは失敗だったろうか。

 結局安さ重視のいつものメニューを頼み、せめてもの温もりのためドリンクバーでコーヒーを取ることにした。

 コーヒーカップからゆらゆらと湯気がのび、香りが鼻をかすめる。体も温まり、ようやく落ち着ける––––と、思ったのもつかの間、甘いような苦いような、何かがくすぶる臭いが混じる。タバコだ。出入り口近くは風通しが良く、必然的に禁煙席の近くでもある。ちらと見るとしきりの壁から紫煙がもうもうとはみ出ている。結局その日はタバコを吸わないように息を止めたり鼻を押さえて気を紛らわしながら時間を過ごす羽目になった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る