第三話「ガールズトーク」
「宝島 ~僕と二人の少女の空駆ける青春~」
原案:ロバート・ルイス・スティーブンソン
作:金谷拓海
第三話「ガールズトーク」
ジムはケイをお姫様だっこしながら、医務室に急いだ。
ケイは懐から宝の地図を出してジムに渡す。
「ごめんなさい。あたしのわがままのために宝の地図を危険にさらして…」
「いいんだよ、それより早く治療しないと!」
ゼロとの一騎討ちに勝ったものの、ケイの負傷も尋常ではなかった。
ジム「いいよ。出航して!」
エンジンに火が入る。勢い良く浮上するヒスパニョーラ号。
逆に一隻の飛行船が降りてくる。ゆっくり見えてくる空気嚢。その空気嚢には、ドクロのマーク。ピュイの乗船「大いなる野望」号だ。
なぜか、ヒスパニョーラ号には攻撃をしない。
地上より10メートルのところで止まり、そこから大声で誰かにしゃべりかけた。声の主はブラインドのピュイだ。
ゼロは瀕死ながらまだ生きていた。いま、治療すればまだ助かる可能性はあった。だが
「ゼロ、お前は俺たちを裏切った。それは万死に値する」
「ピュイ様、お許しを。もう絶対裏切らないから。頼む、いや、お願いします」
そんな泣き言を聞く海賊・ピュイではない。
「主砲発射用意」
「撃てーー」
一斉に手法弾が放たれる。逃げ惑う地上の海賊たち。
「助けておくれよ。もうだまさないからさぁ。お腹の傷が痛いんだよ、後生だから…」
その言葉がゼロの最後のセリフだった。
その直後、ゼロは絶命した。死因は爆死だった。
スモレット船長はピュイが追ってくるんじゃないかと心配した。
が、ピュイは、追ってこなかった。
ゼロの残党掃討に時間がかかったのと、宝の地図がジムたちの元にあるためだ。
どのみち、攻撃はできない。
ヒスパニョーラ号の窓の内側には船員がみんなで60センチ四方の箱を持っていた。
片面だけに丸い穴が空いている。そう、デンジロウ先生の空気砲だ。
あれの応用だ。箱内には、みじん切りしたタマネギが入っていた。
それが15個も。
いきなり、海賊たちが目を抑えた理由がわかった。
タマネギ砲の一斉射撃を浴びたら、それはしばらく目が使えなくなる。
しかも、タマネギにはマスタードもたっぷりかけてあった。
ジムが厨房のゴミ箱からヒントを得て、この作戦を思いついたのだ。
もちろん、失敗する危険性も高かった。だが、現状、持っている装備、戦力を考えるとこれが最も成功確率が高かった。
ジムたちは海賊を皆殺しにするのが目的ではない。30秒という時間を稼ぎ、ケイを助け、宝の地図を奪い返すだけだった。それだけを考えて作った作戦だ。
結果的には大成功だった。
ゴールド「あーあ、今後しばらくはタマネギ料理のオンパレードだな」
水兵たち「えーーーー」
「でも、マスタードかかっちゃっているしなぁ。タコスにでもするか!」
とニヤリと笑った。
医務室では、医療ベッドに寝かされたケイ。
ジムがその傍に座っている。
寝ているケイにしゃべりかけるジム
「タマネギのみじん切りに時間ががかっちゃって、ギリギリになっちゃった。ごめんね。ケイ」
リブシー船医「また、戻って来ちゃいましたね、この娘は。今度はだいぶやられちゃって…。でも、重篤な傷はない」
「ケイ君、いい塗り薬があるから、この傷はぜんぶキレイに直るよ。安心していい」
「ありがとうございます。リブシー先生」
だが、ケイの顔は笑ってはいなかった。
そして、その後、数日は何も起きなかった。
医務室で起き上がるケイ。傷はすっかり直っている。肌はキレイなままだ。
その頃、船長室でも異変があった。
「ワギャーー。こんなことでどうする あたし!」
大声が炸裂する。
船長室の前に集まるみんな。
船長室の前には執事のレッドルースが鉄壁のガードで絶対に室内に入れまいと構えている。
その時、バタンと扉が開いた。
「もう落ち込むのやめた。落ち込んでも、何もいい事なかった」
ブリジットであった。
何もできない自分に腹が立ち、自室に籠もっていたが、やっとスランプを抜け出たようだ。
「あれ? あたしがいない間に何かあった? ジムの顔がちょっと男っぽくなってる」
「そうだよ、ブリ。いろいろあったんだ」
「ちょっと、何よその呼び方。ブリって、あたしはね、魚の名前じゃないんだから」
いつものブリジットに戻っていた。
そこにケイが現れた。服がないので、ボロボロの振袖をまだ着ている。 「ちょっと、ジム、この子は誰?」
ジムが紹介する「日本人のケイさ」
“近藤たま”という本名を聞いたもののなんだか、ジムにはシックリ来なかった。ケイは自分の身がバレないように偽名の宮川ケイと名乗っていた。だが、その方がケイらしいとジムは思った。
ケイ「はじめまして」
ブリ「あたしはブリジット・トリローニ。レイディーブリジットと呼んでね。あなた、何歳?」
ケイ、普通に答える「16歳」
「あたしとタメね。じゃあ、ブリジットでいいわよ」
「あれ、なんて格好してるの。ここは、オトコだらけの船上よ。あたしの服を貸してあげるから、あたしの部屋に来なさい」
強引に引きずりこまれるケイ。
バタン。ドアが閉まる。中からブリの声が聞こえる。
「これなんかどう?」
「あら、意外に似合うじゃない? じゃあ、これは」
「やめてください」
ピンクな会話が聞こえる。
そして、10分後。ケイが出てくた。
紺のセーラー服に紺のミニスカート。それに黒のニーソックスを履いている。靴は前から履いていた黒のブーツをそのまま履いていた。
「もっとオシャレでキューーートな服、いっぱいあるのに、ここは船だから水兵服がいいんだって。本当にヤーパナー(日本人)は変わっているわね」
そこに神風が吹く。
ふいにケイのスカートがめくれる。
チュドーーーーン
目の前にいたジムが鼻血を出して倒れた。
《なんか、見てはいけないものを見てしまった…。なんかすごい! すごすぎる。風の神様ありがとう》
「あら、ジムどうしたの?」
事態がわかり慌てるブリ「ちょっとあんた、なんで下着履かないの?」
「あたしの国では履かないのが普通です。だから、別になんとも思わない」
「じゃあ、ブラジャーもしてないの?」
「ブ・ラ・ジャ? 何それ?」
「もう一回来てちょうだい」
再度、ブリの部屋に招き入れられるケイ。
今度はカメラも中に。
室内ではブリが洋服ダンスを開けている。
すごい量の下着。「ここに入っているのはすべて新品だから、どれでも好きなの使っていいわよ」
ケイ、チラッとその下着ケースをのぞき込む。
ピンク、白、黒、紫、青、緑…すべての色がある。
形もそれぞれ変わっていた。
総レース、シースルー、ひもパン、シルク製、フリル付き…などなど。
「じゃあ、これ」
ケイが選んだのは、白で横が蝶結びになっている三角パンツだった。
「あら、パンツは大胆なのね。なんで?」
ケイは何事もないようにしゃべる。
「あたしの国の下着に近いから」
「あんたの国って、そんな下着をみんな履いているの? すごいわね」
「履くのは殿方だけですけど。ほぼ全員履いています」
ケイ、頭を抱える。≪こんな面積の少ない下着をヤーパナー男子はみんな履いているのね。すごいすごすぎる!≫
「まぁ、ノーパンはもっとすごいけど」
「あと、ブラも着けてちょうだい。欧米ではね。年頃の娘は胸を隠すのよ。わかった?」
「日本では普通に見せてますけど」
「ここではダメ。わかった?」
「わかりました。ブリジットさん」
「タメだから、ブリジットでいいわよ」
「このパンツとセットのブラはこれだから、これ着けて!」
そう言って、白のシンプルなブラジャーを取り出すブリジット。
「これ、こうやってつけるのよ。わかった? 覚えてよね」
そういって、ブリはブラジャーのつけ方をケイに教える。
「両手を後ろに回して、そう、このホックをここにひっかけるの、わかった?」
「さぁ、これで完成よ」
やっと終わったようだ。
ケイの胸は貧乳だ。いや、まさに微乳だ。だから、本来はまだブラジャーは要らないのかもしれない。だが、この習慣を教えないと胸がはだけた時、大変だ。
船の上に法律はない。一応、船長がトラブルには対応するが、船長だっていつもいるわけではない。用心に越したことはない。そうブリジットは思ったからだ。
だが、下着姿のケイを見ると、これはこれでセクシーかもと思った。
上から下までストーンと一直線のシルエット。西洋人とはまったく違う体形だ。そして、小さいお尻。いい形だった。
「あなた、東洋人にしては色が白いわね」
もちろん、白人のブリの方が白い。だが、ケイも東洋人にしては最高に白かった。そして、ストレートな黒髪も魅力的だった。欧米人は金髪だが、どうしても、髪にカールがかかる。ストレートにはならないのだ(現代ではストレートパーマがあるので、金髪でストレートも存在していますが)。
ブリは何も言わなかったが、その白い肌の胸の谷間からへそにかけて一直線に刀傷が入っていた。忘れてはいけないと言わんばかりに赤々と自己主張している傷。それがケイの生い立ちと関わっていることは間違いない。
こんな大きな傷があれば、ブリならトラウマになってしまうところだ。しかし、幸いなことにケイは自分の外見にあまり興味がない。傷が残ろうと日焼けしようと気にしない点はよかった。
ケイは服を着始めた。慣れない仕草でスカートを履く。ウエストのホックを締める。
≪ウエスト54センチぐらいじゃないかな。あたしもウエスト、自信があったけどケイには負けたわ。でもいい?58センチよ、それはそれですごく細いんだから≫
セーラー服を着る。ばんざいのポーズになる。
貧乳に白いブラが妙な色気を出していた。
そして、左脇に付いている4つのボタンをはめる。
これで完成!と思いきや、ケイはこれだけは外せないと、刀ホルダーをスカートの上からつけた。
このホルダーは日本刀をすっぽり収めるための専用のベルトだ。男性用の着物のように腰ひもに刀をひっかけられない女子のために、ケイが特注したものだ。
そして、その刀ホルダーに愛刀であり、父・近藤勇の形見である名刀・虎徹を装着する。
「うん、いいんじゃない」ブリのお墨付きをもらったところでみんなの前へ出る。
船長が立っている。
船長「今日から一緒に旅をすることになった宮川ケイさんよ」
「どうぞ、よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げるケイ。
実は30分前にこんな会話が医務室であったのだ。
室内には、ジムとスモレット船長、リブシー先生。それに治療ベッドの上に座るケイ。
リブシー先生「もう大丈夫だ。完治と言っていい」
船長「ねぇ、あなた。これからどうするの?」
「日本に帰るなら、香港に寄る予定があるからそこまで送るわよ。あなたにはブリジットの身代わりでだいぶ酷い目に遭わせちゃたから、その埋め合わせに」
ケイ、一呼吸置いた後、ゆっくりとだが、決意をもって話し出した。
「もしよければ、あたしをこの船に乗せてもらえませんか? 先日見せたと思いますが、あたし、“居合い”という剣術を使えます。1対1の接近戦なら負けません」
医師「君みたいな女の子は母国へ帰って、普通の生活をしたほうがいい」
「先生の言うことはもっともです。でも、あたし、父の仇を捜しているんです。あたしの国では親の仇を討つまで郷里には帰れない掟があるんです。この船に乗っているほうが仇を捜しやすいと思うんです」
船長「仇って?」
ケイ「今は海賊なのですが元々はサムライです」
船長「して、名前は?」
ケイ「みなさんに迷惑かけちゃうかもしれないので、名前は言えません。でも、あの海賊たちに似たような匂いを感じます」
船長「カン?」
「はい、カンです」
医師「女のカンは当たるからなぁ」
船長「じゃあ、好きなだけこの船に乗ってるといいわよ。だけど、その代わり、戦闘では協力してもらうからね。この船、剣術が優れた人少ないから助かるわ」
「はい。わかりました」
こんな会話があったのだ。
そして、時間軸を現在に。
甲板上。すごいあごひげの老人が走ってくる。機関長だ。まるで宮崎アニメで出てきそうな人物。
「スモレット。スモレット。もう石炭がないよ。どこかで補給してもらわないとガス欠になっちゃうよー」
「いろいろ無理しちゃったからね。仕方ないかー。じゃあ、この近くの港に急ごう」
「この辺の港っていうと…」
ハンス航海長「フランス領アルルが最短でさぁ」
「じゃあ、アルルに向かう。ハンス、よろしくね!」
「アイアイサー、船長」
同日夕刻。
仏領アルル。キレイな夕焼けがあたり一面を覆っている。
そして、その夕焼けを生み出している大元である太陽がいま、まさに雲海に沈もうとしている。
ヒスパニョーラ号は、ギリギリ日没前にアルル港に入港できた。
もやいを結んでいると声が聞こえる。
初老の男性の声だ。
「明日の昼12時までにこれをパリに届けて欲しいんだ」
船乗りの男「ええ!そりゃ超特急の輸送じゃないか。5万ポンドはもらわないと無理だな」
男性「そんなお金はないんじゃ。せめて、1000ポンドでなんとかならんか」
船乗りの男「ムリムリムリムリ…。貧乏人とは仕事はしないんだ。空の輸送は命がけなんだからな」
けんもほろろの対応だった。
男性と一緒にいる子供の声「チェッ。ケチケチ…」
船乗りの男「うるさい! あっち、行ってろ!」
男性と子供たちは追い払われてしまった。
変な集団だった。年端のいかない子供が5人。それにモジャモジャヒゲの男性。体型は太っていて、マツコデラックスのようだった。
さらにもう一人。男の影に隠れている20代の青年がいた。
陰気そうだが、身なりはちゃんとしていた。安いながらもワイシャツにベスト、それにネクタイをしている。
「おお…、困ってしまったのぉ」
――そんな一連の騒動をブリがジーとみていた。
第三話 終わり
次回は「ヒスパニョーラ号、宅配業務始めました」をお送りします。
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