最後の魔女69 運命的な出会い
どうやら勇者は4人でこの古城に乗り込んで来たみたいね。
癒しの力を持つ聖女見習いのユリアーナに、魔法を使う魔女ナイルローズ。暗殺者のジェイク。
勇者アレクシス一行は、各地へと赴き悪しき者を討伐する旅を続けていた。
そんな彼等が次の目的地へと選んだのが、最近この辺りで噂になっていた古城の悪霊調査だった。
「みんな、悪いけど手は出さないでくれ、あの悪魔とは正々堂々と戦いたいんだ」
パンッ!!
ん、仲間割れ?
ユリアーナがアレクシスの頬を引っ叩いた音だった。
「アレス! 状況を考えなさい! 貴方1人で立ち向かえる相手ではありません! 悪魔の力は強大なのですよ」
「しかし、ユリア──」
パチンッ!
今度は、ナイルローズがアレクシスの頬を引っ叩く。
「しかしもない。あいつは強い。4人で力を合わせないと勝てない」
自分で言うのも何だけど、この状況をただ黙って待ってあげている私も同族から言わせたら相当変わり者なんだと思う。
「ねぇ、そろそろいいかしら?」
3人がハッと慌てて武器を構える。
そういえば、1人見えないね。
《陰渡り》
暗殺者のスキルの一つに相手の影の中を移動するものがある。
リグの真下からジェイクが現れ、そのまま短剣を振り上げた。
流石のリグもこの不意打ちに──
「だから、見えてるって」
半歩下がり余裕でそれを躱すと、お返しとばかりに一撃お見舞いする。
《
反撃を予期し、いつでも回避出来るようにしていたジェイクだったが、想定外の速さに避けきれず直撃する。
そのまま後方へと飛ばされるもアレクシスが先回りし、ナイスキャッチを決めた。
その際、アレクシスは電撃の余波を少しだけ受けてしまった。
《
足元に魔法陣が展開されたかと思えば、迸る炎の柱がリグを包み込む。
勿論、容易に避けることは可能だったが、どの程度の威力なのか身をもって知る目的があった。
ふうん。この程度かぁ。確かに若干の熱さは感じるけど、火傷にすらならないわね。人族で魔法が使える者は極々僅かだとは聞いていたけど、これだと驚異にはならない。中位悪魔と同じようなレベルかしらね。
「うそ⋯。あれを喰らって無傷なんて、そんな⋯」
ナイルローズが膝をつく。
私が歩み寄ると、勇者が剣を振り上げ斬り掛かってくる。
「だから、アンタの剣技は遅すぎるって」
悪魔の腕で、今度は少しばかり本気で殴り飛ばす。
期待外れだったな。さっさと終わらせよう。
一番近くにいたナイルローズの元へと歩み寄り、虚空から巨大鎌を取り出す。
彼女は涙を零し、その表情は絶望に歪んでいた。
そんなリグとナイルローズの間に、唯一無傷の聖女ユリアーナが割り込んだ。
「こんなことを言うのは、虫が良すぎると自分でも思います。どうか、ここは私一人の命だけで、他の皆は見逃して頂くことは出来ないでしょうか」
ユリアーナは跪き、頭を下げる。
敵であるリグの前でこんな無防備な状態を晒すなど、いつ殺されてもおかしくないだろう。
なに、命乞い?
面倒だなぁ、そんなものに応じなくてもこのまま全員殺しちゃえば関係ない。そもそもこの交渉に応じる意味が私には全くない。
「アンタ馬鹿なの? 交渉の余地があると思う?」
「あ、貴女たち悪魔は、何よりも聖女を恐れていると聞いています」
聖女を恐れてる? 私が?
いや、そういえば、フォルネウス様から聞いたことがある。
人族には数々の猛者がいるが、何よりも恐ろしいのは剣士でも勇者でも魔女でもない。それは力を持った聖女。聖女はその特異な能力だけで、我々悪魔の力を封じることが出来る者がいると。
過去に上級悪魔が人族にやられた時も聖女の力が大きかったと。
「いますぐにでもその首を撥ねれると思うけど。そしたら交渉なんて意味がないんじゃない?」
ユリアーナが跪いたまま、顔を上げた。
「貴女は、心優しいから、きっとそんなことはしないと思います」
その時だった。リグの身体に衝撃が走った。
それは、まるで何かが身体を貫いたように。
リグはすぐに自身の身体を触り、確認するも血が出ているわけでも穴が開いているわけでもなかった。
「アンタ、何をしたの!」
リグはユリアーナの胸ぐらを掴み上げ立たせる。
苦しそうに顔を歪めるも、この時初めてマジマジとその顔を見た。
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