最後の魔女68 勇者一行

あーあ、暇だなぁ、退屈だなぁ⋯


 人族のレベルの低さに落胆している毎日を過ごしていた。

 私は悪魔。悪魔は人族の敵であり、同族の中には積極的にその人族の狩に勤しむ者もいる。


 私? 私は別に人族と争いたいなどとは思わない。思わないけど、嫌いじゃない。自分から進んで首を突っ込まないってだけで、あっちから仕掛けてきたら問答無用で応戦するよ。

 それに悪魔と言う種族柄、戦闘は割と好きな方だと思う。

 時々何かの思念が邪魔をしに来て、争いはダメだと促してくるけど、これは一体何なんだろうね。


 そんな平凡で退屈な毎日を送っていたとある日の出来事だ。


「たのもー! 私は勇者だ! この城に住まう悪霊よ。私と一騎打ちに応じろ!」


 む、何か変な奴が来たね。

 だーれが、悪霊だって? 失礼しちゃう。


 こっそりと入口の方を窺うと、双剣を手に携え、周りをキョロキョロとしている一人の人物がいた。


 うーん、勇者と名乗るだけあり、身に纏っている鎧とか兜とか、キラキラしてて何だか強そう。

 今までが不甲斐なかったから少しは期待出来そうだね。


 そんな気持ちを胸抱きながら颯爽と勇者の前に姿を現す。


 ん、何だか、驚いてる?


「お、お前が⋯⋯。悪霊なのか?」

「何その想像と違いますみたいなノリは」

「いや、だって、悪霊って言ったらさ、こう、大きくてモヤモヤしてて、怖い感じのイメージがあるんだけど」


 さっきから本当に失礼なやつね。呪い殺してやろうかしら。そんな能力ないけど。


「ていうかそもそも、私は悪霊じゃないから」

「なんだと! ならば、、ま、魔族──」

「あ・く・ま! 私は悪魔! 第20位階リグレット・リンドットよ。覚えた?」


 勇者は何故だか口をポカーンと開けて放心状態だった。


 隙だらけにも程がある。

 もしかして、勇者とは名ばかりのただの雑魚?

 もう先制攻撃してやろうかしらと思っていたら、勇者がお返しにと名乗り出す。


「私は双剣の勇者アレクシス。勇者歴は5年だ。いざ、尋常に勝負だ!」


 勇者にはそれぞれが単一した呼称がある。

 それは勇者に選ばれた際に祭祀により決定される。優れた武勇に因む場合や特徴に因んで決められる場合と、様々だった。


 アレクシスは双剣の使い手として武勇を馳せ、勇者に抜擢された。

 勇者になるには天啓を受ける必要があり、誰しもが成れるわけではない。


「お手やわからに」


 開始と同時に先に動いたのは、アレクシス。双剣を地面に突き刺す。


 大地を抉りながら、リグに向かい激震が迫る。

 中々のスピードだったが、リグたち悪魔には背に翼を持っており、易々と上空へと退避する。


 それを見たアレクシスは、次いで横薙ぎに双剣を振るう。

 今度は斬撃が宙を舞い、リグへと迫り来る。


 ふうん、避けるのは造作も無いけど、どの程度の威力があるのか見定めてあげるわ。


 背中の翼の付根あたりから、件の悪魔の腕を出現させると、斬撃をガードする。


 一定の威力までならこの腕だけで十分防げそうかな。あんまし戦闘で使ってないから、慣れておかないといざって時に使えないからね。


 リグの悪魔の腕は、ガードにも使用出来るが、その真骨頂は神速の打撃だった。


 さて、反撃開始っと。


 遠距離からの神速の右拳を相手にお見舞いする。


 アレクシスは察知すら出来ずに吹き飛ばされ、左にあった小部屋を破壊して、埋もれてしまった。


 リグは暫く様子を伺っていたが、アレクシスは瓦礫に埋もれたまま出てこない。


「え、もしかしてもうお終い?」


 なんだぁ、期待外れかぁ。

 リグが目を逸らそうとした瞬間だった。

 双剣の片側が眼前へと迫っていた。

 咄嗟に屈んで躱した先に待っていたのは、瞬時に双剣の元へと転移するスキルを行使したアレクシスだった。


「もらったぁぁあ!」


 リグの首目掛けて振り下ろす。


 しかし、それをいとも簡単に悪魔の腕で掴み取ると、ブンブンと乱雑に左右に振るい、アレクシス諸共放り投げた。


「意表は突かれたけど、その程度のスピードじゃ、全く相手にならないよ」


 苦悶の表情を浮かべながら、双剣の片割れを杖代わりとし、何とか起き上がるアレクシス。


「流石は悪魔だな⋯噂には聞いていたが、まさかこれ程とは」

「一応教えておくけど、高位悪魔の中じゃ、私が一番下っ端だから。私に勝てないようだと、誰にも勝てないと思うけどなぁ」


 勇者と聞いた時は少し期待したんだけどね。時間の無駄だし、さっさと殺しちゃおっか。


 悪魔の腕の両拳をニギニギしながらダメージによりその場から動けないアレクシスの元へと近付く。


 両手で握り潰そうとした時だった。


 微かな魔力を感じ、咄嗟に後ろを振り向くと、巨大な火の玉が差し迫っていた。


 私の悪魔の腕じゃ、魔法は防げない。逃げるしか──


 右に避けようとした瞬間、何者かが右側からリグに短剣を投擲する。

 それを横目で捉えつつも、一瞬の判断の迷いから、結局回避出来ずにまともに火炎球を受けてしまった。


 かろうじて、短剣は悪魔の腕で掴んでいる。


 伏兵がいたのか。まぁ、別にいいけど。勇者の仲間かな?


 おっと、もう一人いるね。

 動けずにいたアレクシスの元へと駆け寄り、何かを唱えると、なんと、アレクシスの傷が見る見るうちに完治していく。

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